観る者それぞれにとっての〈佐々木〉と向き合う青春映画の新たな傑作!

 観た人の数だけ映画はある、などと言う常套句をあらためて使うのも野暮な話だが、本作ほどその言葉通りの映画もない。見る者の実人生が重ねやすい青春映画というジャンルなら尚更である。但し、およそ青春映画が過ぎ去った〈あの頃〉に思いを馳せる甘美な片想いのようなものだとしたら、本作は〈あの頃〉が観る者に過去の清算を迫る映画だといえばよいだろうか。

内山拓也 『佐々木、イン、マイマイン』 アメイジングD.C.(2021)

 役者として売れず同棲生活もうまくいかず惰性な生活を送る主人公が、とあるきっかけから高校の友人だった佐々木のことを思い出すという映画だ。佐々木は、はやし立てられると全裸で踊ってしまうというような(男子には)人気者。放課後には、佐々木の家で友人ら4人で遊ぶ仲だ。佐々木の家は父親と二人暮らしだが、父親は家にいることは少ない半ばネグレクト状態という複雑な家庭環境である。しかし、あくまでポジティブな佐々木。でも父親に思いを馳せる佐々木。「お前は好きなようにやれ、好きなように生きろ、お前は大丈夫だから」と一滴の涙と共に笑顔で自身を後押ししてくれる佐々木。あの時代の主人公の〈ヒーロー〉だった佐々木。大好きだった、佐々木。しかし、そんな佐々木ともある契機を境に疎遠になっていく…。

 監督・内山拓也は、初監督作「ヴァニタス」がPFFアワード2016観客賞で注目を集め、King Gnuのミュージック・ビデオなども手掛ける92年生まれの俊英。劇場用長編デビュー作にあたる本作での、主人公が演じる戯曲と過去・現在を交錯させる構成力、佐々木役に細川岳をはじめ役者陣の魅力を引き出す演出力は新人離れした素晴らしさだ。

 登場人物・佐々木の魅力に圧倒されるとともに、観る者それぞれにとっての〈佐々木〉が去来する2時間となるはずだ。〈佐々木〉とは、なにも友人とはかぎらないし、ひょっとすると人ですらないかもしれない。映画のエンディング同様、各々の〈佐々木〉と向き合っていただければと思う。