Make Me Act A Fool
惜しまれながらこの世を去ったDMXの遺作『Exodus』……盟友スウィズ・ビーツらの尽力した楽曲群に、破滅へ向かった不世出のラップスターの最後の輝きは宿っているのか?

 アーティストの生き死にが速効性の高いエンターテイメントとして大きな価値があり、その死についていかにスピーディーかつスマートに振る舞うかが無意識下で重要視されるようになった時代なので、2021年4月9日に亡くなったDMXの、5月に配信された遺作『Exodus』が数か月を経てようやくフィジカル化され、それをここで紹介したところで、いまさらのように感じる現代人は多いに違いない。逝去からの数日で過去曲のストリーミング再生数は数百%単位で増加したそうだが、そういう意味で彼は亡くなるまで忘れられた存在だったし、同じ意味において、リリースから数か月を経たこの遺作ももう忘れられている。

 それでも本作に変わらぬ価値が残るとしたら、これがいわゆる未発表音源をコンパイルしたものではなく、デフ・ジャムと再契約した生前のDMXがスウィズ・ビーツと制作を進めていた正真正銘の新作(の途中経過)だということだろう。前年のロックス“Bout Shit”で久々に覇気のある客演を聴いてどれだけの人がカムバックを待つ気になったのかはわからないが、5作連続の全米No.1ヒット以降の十数年間は逮捕や入院や破産などネガティヴなニュースの住人と化していただけに、もう一花咲かせてほしいという期待があったのは確かだ。この新作を実際に聴けば声の衰えやパートの少なさは明白だし、急ごしらえでアルバムを完成まで持っていった制作陣やゲストには敬意を表さざるを得ない。ネタで耳を惹く“Take Control”に同世代の猛犬スヌープが駆けつけているのを聴けばやはり健康が第一だと思うし、ジェイ・Zとナズが客演した“Bath Salts”を聴けば、オリジナルのマーダー・インクや映画「BELLY 血の銃弾」で真ん中に立っていたのが誰だったのかを思って無念な気持ちにもなる。つまりはフラットな気分で真っ当に何かを言っても仕方のない作品だとも思う。

 いずれにせよ、こんなメチャクチャな人はもう出てこない。一度だけ来日した際の凄まじい華のあるステージも客席の熱狂&合唱ぶりも忘れられないし、数々のアンセムがクラブでかかりまくっていたことも思い出すが、そんなことを言っても仕方がない。彼は確実に天下を獲って確実に時代の流れを作った存在だと思うが、それもそう感じていた人だけが覚えておけばいいことだし、そうでなければ記録上の数字だけが残ればいい。『Exodus』は本当に彼の作品を好きだった人がそのことを思い出すための一枚だ。