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共通点は〈ただのバンドサウンドではない〉ところ

――では今回のスプリット盤について訊いていきます。Roleは結成当初の激情系ハードコアから徐々にブラックメタルに傾倒したそうですが、それがサウンドの変化に表れていますね。

森本「そうですね。ここ数年は海外でポストブラックメタルとかブラックゲイズと呼ばれるバンドがかなり増えていて、そういうバンドをよく聴いてましたし、彼らのルーツにあたるエンペラー、メイヘム、ダークスローンとかももう一度聴き直したりしました」

――なぜブラックメタルに惹かれたのでしょうか?

森本「他のメタルとは違って、激情系にも通じるところがあったのかな。ブラックメタルはすごく悲しい感情をぶつけてるというか、絶望感みたいなものが感じられて、それが自分の人生ともリンクして、琴線に触れたというか。自分が生活のなかで感じていたことが、彼らの音楽からも感じられて、それですごくハマったんだと思います」

――為井さんはRoleの曲を聴いて、どんな印象でしたか?

為井「スネアが多いなと思いました(笑)。僕らはいかにスネアを抜くかを突き詰めてるところがあるので、足し足しのRoleが羨ましいというか。ホントは感情を表に出す曲とかもやりたいんですけど、僕らはあえてそれを抑圧しながら曲を作っているので、このスプリットはそういう対照性もおもしろいなって」

――たしかに、スネアの音数はまったく違いますね(笑)。Roleの曲は森本さんがほぼ一人で作って、それをバンドで再現する形だそうですが、ブラックメタルの影響を受けつつ、アレンジやサウンドメイクに関してはどんな部分に力を入れましたか?

森本「さっき為井くんが言っていた通り、僕らはいかに音を詰めるかを意識しているので、今回で言うと、“Red”や“Origin”では同期の音をかなり多用していて。バンドの音だけだとどうしても隙間ができちゃうので、そこをいかに埋めるかが課題なんです。ギターのアルペジオが鳴ってるところでも、ストリングスやクワイアとか、かなりいろんな音を入れました。

海外のバンドを聴いていて思うのが、昔聴いてた楽器の音じゃないというか、もはや〈ほぼすべての音がシンセなんじゃないか?〉くらいのミックスなんですよね。ブラックメタル系で言うと、ドラムをあえてチープな打ち込みの音にしたり、普通の楽器以外の音がかなり大きな割合を占めているので、そこは意識して作りました」

――RoleとOavetteは音の方向性こそまったく違いますが、〈ただのバンドサウンドではない〉という意味においては、共通する部分もあるように思います。

為井「Oavetteの前のEP(2019年作『Oavette』)はもうちょっとバンドっぽく作ったんですけど、次は少し違う感じにしたくて。今回は、正しい表現ではないとは思うんですが〈アコースティックをデジタルに録ろう〉みたいなテーマが何となくありました。すごくきれいで、違和感があるくらいローノイズで、アコースティックな楽器の音を録るっていう。パッと聴くと硬くてライン録音っぽく聴こえるかもしれないですけど、あえてそれを狙いました。

僕らはRoleと違ってメンバーが演奏する楽器以外は何も入れないという信念でやっているので、アプローチは全然違いますけど、〈普通のバンドの音じゃない〉というのは、たしかに一緒かもしれないですね」

――制作をするにあたって、何かリファレンスはありましたか?

為井「特定の何かはなかったんですけど、たとえば、ニルス・フラームやオーラヴル・アルナルズみたいなポストクラシカルの人たちの音源って、すごくクリアなんですよね。あの人たちもアコースティックな楽器を録ってると思うんですけど、ホントにローノイズで、いくらボリュームを上げても粗がないような音になっていて、ああいうのを目指したというのはあります。

ノイズがないと没頭できる気がするんですよ。ロックのノイズもかっこいいし、ライブではそういう音を目指してるんですけど、音源はずっと聴いていられる感じにしたくて、そうなるとノイズは少し邪魔になってくるんですよね」

――森本さんはOavetteの曲を聴いて、どんな印象でしたか?

森本「めっちゃ難しいなって、最初はそれですね(笑)。何とかこれを解読して、自分でも弾けるようにしようとするんですけど、いつも途中で挫折しちゃうんですよ。あとは、確かに今回音がすごくクリアで、めちゃくちゃ難しいことをやってるんだけど、でも耳には優しいっていう、その感じもすごくいいと思いました」

為井「Oavetteの曲はまず僕が完成形が分かる形まで作って、それをメンバーに投げてるんですけど、〈実は難しい〉というのがすごく好きで。何となく聴いてるぶんには当たり障りないけど、弾いてみようと思ったら全然弾けない……というのにグッとくるから、自分もそういうのをやりたいというのはあります。僕はドラムとかは叩けないので、デモでは人間業じゃ絶対叩けないフレーズを入れているときがあるので、そういうところはメンバーに修正してもらう感じですね」

――DTMで完結させるのではなく、バンドで鳴らすことにこだわりがあるわけですよね。

為井「イギリスにドーン・オブ・ミディを観に行ったときにライブ会場で、ある日本人アーティストにたまたまお会いしたんですけど、その方が〈ドーン・オブ・ミディの曲って完璧な打ち込みになるとちょっと違うよね〉と言ってて、そういうことだなと思いました。バンドでやることで微妙なずれとかが出て、それによって完成する。そこをずっと追いかけてる感じはありますね」

 

ライブがないとバンドでやる意味がない

――ちなみに、おふたりはバンドのコンポーザーであると同時に、ギタリストでもあるわけですけど、〈ギター〉という観点では何かポイントはありましたか?

森本「“Origin”はギターリフらしいギターリフが出てきて、〈たまにはこういうのもやりたいし、やっちゃってもいいか〉と思って入れました。弾いてみたら意外と難しくて、結構苦戦したんですけど、練習したら何とかできるようになって、この曲は弾いててすごく楽しいですね」

――為井さんはギタリストとしての自我ってありますか?

為井「ないですね。ギターを弾いてるというより、打楽器を弾いてる感じというか。誰かと誰かの間に自分が絶対いなきゃいけないというのがあって、そこに決まったタイミングで入れるとか、みんなで暗黙のBPMが共有されてて、正しくそこに音を打つ、みたいなのは楽しい。だけど、それがギタリストらしいかと言われると、そうじゃないかも」

――“ZF”は一本がリズムを刻んでいて、もう一本が空間系のサウンドを弾いていますが、どういった割り振りなのでしょうか?

為井「僕は空間系を弾くことが多いです。もう一人のギターの人はリズム感がよくて、僕では難しくて弾けないんですよ。なので、弾きながらもなんとなく全体像を見てる感じです。まず曲を作って、どっちを弾くかはその後に振り分けるので、向こうがリズムで、僕がそれ以外ということが多いですね」

――Roleの4曲は2020年に『ZOHAR』というタイトルのEPとして配信でもリリースされています。歌詞の内容を含めたテーマについて教えてください。

森本「〈ZOHAR〉は宗教用語で、自分の中では〈信じた道を進む〉みたいな解釈です。今回初めて自分で歌詞を書いたので、かなり手探りで、聴き直すと恥ずかしい部分もあるんですけど、自分の生活や身の回りで起きたことをインスピレーション源にして書いてます」

――途中でブラックメタルについて〈悲しい感情をぶつけているところに惹かれた〉という話もありましたが、やはりコロナ禍の中では困難も多く、それでも〈信じた道を進む〉という決意をタイトルに示したのでしょうか?

森本「コロナでライブが全然できなくて、バンドとしてこのままでいいのかと思うことはすごくありました。曲は一人で作って、演奏してもらう形なので、正直ライブがないとメンバーがいる意味もなくなっちゃうんですよね。それでもバンドというスタイルでライブをして、人に直接観てもらうことがいちばん楽しいと思うので、それをそのまま進んでやっていきたいということを表したタイトル……でもあるのかな」

――きっとバンドのことだけでなく、人生のいろんな困難に当てはまるタイトルでしょうね。為井さんはコロナ禍のなかでバンドについてどんなことを考えましたか?

為井「さっきの森本さんの話とまったく同じで、僕らもライブがないとバンドでやる意味がないと思っていて、そんな中でRoleはライブをやっていこうという姿勢を示しているので、そこはすごく尊敬していて。今回一緒にやろうと思ったのは、そのあたりの波長が合うと思ったのも大きくて、コロナが終わったら一緒にライブもやりたいですね。普通にやってたら一緒に出るイベントなんてないですけど、スプリットを出したら一緒にやってもいいと思うから(笑)」