(左から)Role、Oavette
 

石川のポストハードコアバンドRoleと、愛知のインストバンドOavetteが、北陸のインディーシーンをリードする富山のTOKEI RECORDSから2枚組のスプリット『28 l 29』を発表した。激情系のボーカルとトリプルギター編成で〈ポストブラックメタル〉とも共振するRoleと、ジャズやテクノを通過したミニマルなアンサンブルを人力で鳴らし、ポストロック/音響系をいまに更新するOavette。その音楽性はジャケットに描かれた弁慶と義経のように対照的だが、バンドの中心人物であるRoleの森本順喜とOavetteの為井悠男は、もともと金沢の大学時代に同じバンドのメンバーだったという。

一度袂を分かち、それぞれの趣向を突き詰めるべく2012年に新たなバンドをスタートさせた2人が、10年の時を経てまさかの邂逅を果たしたというのは、何ともストーリーを感じさせる。北陸を起点に世界へと視野を広げる2組に、今回のスプリットについて語り合ってもらった。

Role, Oavette 『28 l 29』 TOKEI(2021)

激情系ハードコアのRole、ジャズ × ポストロック × テクノのOavette

――活動の拠点も違えば、音楽的にも真逆と言っていい2組がなぜスプリットを出すのだろう?と思ったのですが、おふたりはもともと同じバンドのメンバーだったそうですね。

為井悠男(Oavette)「そうなんです。僕と森本さんだけじゃなくて、みんな同じ金沢のシーンにいたので、メンバー全員顔見知りなんですよね。前のバンドは就職を機にバラバラになって、その後は各々バンドを続けてたんですけど、僕は一昨年くらいに海外に住んでいたんです。なので、その間に曲を作って、CDを出そうと思っていて。

でもコロナ禍になっちゃって、ツアーとか考えていたことが全部崩れちゃったんです。それでも何かしたいと思ったので、森本さんに声をかけて、こんなときだから普段やらないことをやろうということで、スプリットを提案したら、〈いいんじゃない?〉って。で、コウイチさん(山内コウイチ、TOKEI RECORDS主宰/interior palette toeshoes)に声をかけたら、ひとつ返事で〈出しゃいいじゃん〉って感じだったので(笑)、リリースすることになりました」

森本順喜(Role)「僕も去年は思ったような活動が全然できなくて、〈これからどうすればいいんだろう?〉と思ってたときに、為井くんから連絡がきて。前のバンドが解散して以降は、音楽的にはまったく交わらないようなところにいたんですけど、だからこそ一緒にやったらおもしろいんじゃないかと思いました」

為井「ハードコアのバンドはスプリットをよく出すじゃないですか? 昔からそういうのに憧れがあったんですよね。トータスもThe Exと出してたり、ああいうことがやりたくて」

※99年リリースの『In The Fishtank』
 

――おふたりが大学時代にやっていたのはemiというバンドで、結成は2008年とのことですが、当時どんな音楽を共有していたのでしょうか?

為井「モグワイとかエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ、メイビー・シー・ウィルのような轟音ポストロックみたいなのをやりたいなと思っていました」

森本「当時はそういうのをすごく聴いてました。でもメンバー全員が好きなバンドとなると、〈これ!〉っていうのはなかったかもしれない」

為井「ゴッドスピード(・ユー!ブラック・エンペラー)、モグワイ、envy……リズム隊はバトルスやファラケットとかも好きだったのかな? あとはLITE、BALLOONS、OVUM、kacicaとか国内のバンドも好きでしたね」

emiの2008年のEP『widow』
 

――2007年にバトルスが『Mirrored』を出して、2008年にLITEが『Phantasia』を出して、日本でもシーンが大きくなっていった時期ですよね。

為井「そういうのをよく聴いていましたね」

――ちなみに、卒業後もemiを続けようという話にはならなかったんですか?

為井「まったく(笑)。ぶっちゃけて言うと、たぶんみんなやりたいことが違うんだろうなっていうのは当時から思ってました。森本さんは東京に行っちゃったし」

森本「僕だけ途中でやめちゃってるんです。進路の関係で一回金沢を離れて、東京にしばらくいたので。emiは4人組だったんですけど、僕だけハードコアとかメタルがすごく好きだったので、やりたい音楽は結構バラバラだったと思います」

――モグワイとかが共通項としてありつつ、それぞれの好みはバラバラで、それがその後のバンドに繋がっていると。森本さんで言うと、envyのような激情系のハードコアバンドが好きで、それでRoleを始めたわけですよね。

森本「金沢にいたときは激情系のバンドのライブを観る機会はほとんどなかったんですけど、東京だと毎週末どこかでそういうバンドのライブがあって、メタルとかのライブにも行くなかで、激情系のライブがかっこよかったんですよね。

で、就職の関係で金沢に戻って、もう一回新しいバンドをやろうとなったときに、Roleを組みました。envyももちろん大好きなんですけど、いまのRoleはどちらかというとheaven in her armsのサウンドに近いと思います。編成がまったく一緒なので。最近の楽曲はデフヘヴン、アルセスト、オースブレイカーなどいわゆる〈ポストブラック〉と言われるような海外バンドからの影響が強くなってきています」

Role
 

――最初からトリプルギターのバンドを構想していたわけですか?

森本「そうです。heaven in her armsのライブを観たときに、それまでに感じたことのない音圧を体験したというのもあるし、ギターが3本あると曲を作るうえでもおもしろいと思ったので、この編成に決めました」

――逆に、為井さんはOavetteでよりミニマルな音楽性にシフトしたわけですが、結成当時はどんな音楽を聴いていましたか?

為井「バンドだとトータスとかマセラッティ、チューリング・マシンとかのポストロック系を聴いていたんですけど、普段はテクノも好きで、ベン・クロックやブリアル、アクフェンとかをよく聴いてました。interior palette toeshoesがちょうどその中間+ゴッドスピードみたいなイメージで、〈ああいうのかっこいいな〉と思いつつ、それをより突き詰めてやりたいなって。あとはジャズですね。ドーン・オブ・ミディとかニック ・ベルチュが好きで」

――YouTubeにカバー動画もありますよね。

為井「ドーン・オブ・ミディはメールを送って、イギリスまで会いに行ったりもしました(笑)。なので、ジャズとポストロックとテクノみたいな、その辺を聴いてバンドの構想をしたんだと思います」

Oavette
 

――ちなみに、愛知にはハードコアのシーンがあると思いますが、土地から影響を受けた部分もあると言えますか?

為井「どうだろう……。もともとハードコアは好きで、名古屋にはSTIFF SLACKがあるから、個人的にいろんなアーティストを観に行ったり、STIFF SLACK周りのハードコアバンドと対バンしたりはしてきたんですけど……。でもシーンみたいなもののなかにはいないというか、友達は少ないですね(笑)」