80年代由来のシティー・ポップを掘り下げてきた彼女が担う、初の映画主題歌。シリアスなテーマに挑んだ言葉と歌声には、新たな資質が浮かんでいて……

まったく違う考え方で

 80年代のフレイヴァーを現代的なJ-Popへと昇華したサウンドメイク、都市で暮らす女性を描いた映像的な歌詞、そして、凛とした強さと叙情的な質感を併せ持ったヴォーカル――昨年9月にミニ・アルバム『Moonrise』でデビュー以降、自身が作詞を、プロデューサーの本間昭光が作・編曲を手掛けるスタイルでアーティストとしての確かな資質を示してきた降幡愛。「アーティストとして活動できるのはもちろん嬉しかったんですけど、デビューのときは〈1枚だけかも〉なんて思ってたんですよ(笑)」と語る彼女だが、2枚目のミニ・アルバム『メイクアップ』、7インチ・シングル“AXIOM”と作品を重ねるごとに表現の幅を増し、2度の全国ツアーを行うなど、ライヴ活動も活性化。現行シティー・ポップ・シーンの新星として、その名を浸透させてきた。

 「当初は、本間さんと密にやり取りしながら制作させてもらえるとも思ってなかったし、自分がこんなに歌詞を書くことも想像していなくて。好きなことをやらせてもらえるのは、本当にありがたいです。応援してくださる皆さんからも、最初は〈こういうアーティスト像は意外だった〉という感想もあったんですけど、〈私はこれがやりたいんだから、しょうがないよね〉という感じで活動を続けていたら、〈ついていくよ〉という声が増えてきて。あと、RHYMESTERの宇多丸さんがラジオで私の曲を紹介してくださったり、いろんな繋がりができたのも嬉しいです。最近は声優としてではなく、音楽活動で私のことを知ってくれた方もけっこういらっしゃるんですよ」。

降幡愛 『東から西へ』 Purple One Star(2021)

 80sポップス直系のカラフルな音像が印象的だったファースト・シングル“ハネムーン”に続くセカンド・シングル“東から西へ”の表題曲は、中山優馬の主演映画「189」の主題歌として生み出されたミディアム・バラード。制作はこれまで通りに〈詞先〉なのだが、児童虐待をテーマに据えた映画のストーリーに寄り添いながらの作詞は、従来とは違うハードルがあったという。

 「これまでの歌詞は切ない恋愛ソングが多かったので、まったく違う考え方が必要だったんですよね。いちばん最初に書いた歌詞は少し暗くて、〈映画を観終わった皆さんに問う〉みたいな内容だったんですが、監督(加藤幾生)から〈明日への希望が感じられるものにしてほしいです〉というお話があって。〈生きていれば、大丈夫〉という思いを込めているのですが、ここまで前向きな歌詞を書いたことがなかったし、私にとっても新しさを感じる曲になりましたね。タイトルの“東から西へ”は、〈日が昇って、日差しがある時間を表すには、どんな言葉がいいだろう?〉と考えて決めました」。

 切ない郷愁と心地良い力強さが融合したメロディーライン、アコースティックな手触りのサウンドメイクも、これまでの降幡愛の音楽性とは一線を画している。中心にあるのはもちろん、彼女の歌。聴く者に寄り沿い、励ますようなヴォーカルからは、シンガーとしての豊かな資質が改めて伝わってくる。

 「音数も少なめで、歌がダイレクトに伝わるアレンジなので、最初に聴いたときは〈ライヴで歌うとき、すごく緊張しそうだな〉と思いました。レコーディングでは、とにかく力強く歌うことを念頭に置いてましたね。感情的になりすぎると聴いてる人は冷めちゃうだろうし、温かみが感じられないと曲に沿えない。今までとはかなり雰囲気が違う歌い方になったと思います」。

 “東から西へ”のMVには、降幡の友人でもある声優/俳優の小宮有紗も出演。二人の日常を切り取った映像には、降幡自身のアイデアもふんだんに反映されている。

 「監督の平野貴嗣さんには“真冬のシアーマインド”“ハネムーン”のMVも撮っていただいてるんですが、私の好みや、やりたいことをちゃんと吸い上げてくれるんです。“東から西へ”のMVは、まず〈小宮有紗を撮りたいです〉というところからお伝えして(笑)。これまでの80sテイストの映像ももちろん好きなんですが、今回はフィルムの質感でナチュラルな雰囲気にしたかったんですよね。私としては、有紗のいろんな表情が撮れたのが嬉しくて。カメラでお互いを撮り合ってる場面なんかはプライヴェートでもやってることだし(笑)、彼女との関係性が写っていることにも感動しました」。

 

優しく歌うほうが怖い

 カップリングには、〈これぞ降幡愛!〉と言うべき80s感が全開の2曲が収められている。“サンセットに忍ばせて”は、軽快なギター・カッティング、しなやかにグルーヴするシンセベース、煌びやかなシンセなどが絶妙なバランスで配置されたポップ・チューン。恋愛の終わりと夕暮れの情景を重ねた歌詞にも、彼女の個性が滲み出ている。

 「“サンセットに忍ばせて”は、イントロが始まった瞬間に〈好き!〉という感じでした。もともとの自分のコンセプトである80sの雰囲気がすごくあるし、純粋にいい曲だなって。歌詞は自分から〈さよなら〉を告げて、関係を断ち切ろうとする女性像を描いてます。これまでは〈いかないで〉みたいな別れの曲が多かったんですけど、この曲の主人公はかなり怒ってますね(笑)。レコーディングも、最初はちょっと強気な感じで歌ってたんですよ。でも本間さんから〈優しく歌ったほうが、もっと怖いんじゃない?〉と言われて。結果的に、今まででいちばん優しく歌ってますね」。

 もう1曲の“ネオ・イルミネーション”は、フィル・スペクター~大瀧詠一を想起させる華やかで厚みのあるサウンドメイク、祝祭的なムードが溢れ出す旋律が一つになった、降幡愛にとって初のクリスマス・ソングだ。〈幸せな今を感じ合うから/朝までには元の関係〉という意味深なリリックも彼女らしい。

 「去年の12月にリリースした『メイクアップ』に“真冬のシアーマインド”というウインター・ソングが入っていたので、〈今回はどうなるのかな?〉と思っていたんですけど、J-Popの王道と本間さんらしさが合わさって、素敵な曲になりました。小さいときから竹内まりやさんのクリスマス・ソングなども聴いてきたし、私もいつか作りたいなと思ってたんですよね。歌詞に関しては……クリスマスを一緒に過ごすのは、恋人だけじゃないですから(笑)。恋人同士の楽しいクリスマス・ソングは私じゃなくても書けると思うし、やっぱりこういう歌詞が好きなんですよね」。

 この秋に行われた2度目の全国ツアーに続き、2022年2月にはBillboard Live TOKYOでスペシャル・ライヴ〈Ai Furihata “Trip to STAR”〉を開催。アーティスト・デビューから1年以上が経過し、その活動はさらに充実していきそうだ。

 「2月のライヴは誕生日の前日と当日(2月19日)で、そんな特別な日に応援してくださる皆さんと会えるって、すごいことだなって。声優の活動だけでは経験できないことばかりだし、本当にありがたいです。もう、次の作品の制作もやってるんですよ。皆さんがビックリするような活動も準備しているので、楽しみにしてほしいですね」。

 表現する側としてだけでなく、ディープな音楽ファンとしても知られる彼女。最近はアジアのポップ・シーンが気になっているとか。

 「タイや中国など、今どきのアジア圏のシティー・ポップに興味があって。韓国のADOYも好きです。過去の音楽へのリスペクトを感じるし、ヴィジュアルやアートワークもカッコ良くて、参考にさせてもらってます(笑)。もちろん80年代の音楽も聴いてます。ラジオ番組(bayfmのレギュラー・ラジオ番組「降幡 愛のBecause of you」)を通して教わることも多いんですよ。まだまだ無知な私ですが、リスナーの皆さんと一緒に勉強していきたいなって。サブスクで気軽に聴けるのもいいけど、便利になればなるほど〈やっぱり盤で聴くのがいいな〉と改めて感じてますね、最近は」。

降幡愛の作品。
左から、2020年作『Moonrise』『メイクアップ』、2020年のシングル“ハネムーン”(すべてPurple One Star)