本気のディガーぶりが窺える80年代サウンドで描く女性のしたたかさ――当時のカルチャーを多面的に散りばめた〈降幡ワールド〉に浮気してみたら……

本気の80年代マインド

 〈ラブライブ!サンシャイン!!〉に登場するスクールアイドルグループ、Aqoursのメンバーの黒澤ルビィとしてさまざまなステージを体験してきた降幡愛。彼女がソロ・シンガーとしてデビューし、アニメ・ファンの枠を越えたフィールドに飛び込んできたのは昨年の9月のことだ。プロデューサーの本間昭光とタッグを組んで繰り出されるその世界観は、〈80年代〉の意匠を凝らしたサウンド──とりわけ、当時のニュー・ミュージックやアイドル・ポップなど、近年〈シティー・ポップ〉と括られることの多いさまざまな音楽性──と、メロウなマインドを聴かせるもの。その時代をリアルタイムでは知らない彼女自身もそこに居心地の良さを感じながら、この1年、シンガーとしてのチャームを輝かせてきた。

 「高橋留美子先生がすごく好きで、マンガだったりアニメだったりOVAだったりをたくさん観ていたので、(居心地の良さを感じるのは)そういうところが入口にあるのかなって思います」。

 漫画家の高橋留美子といえば、「うる星やつら」「めぞん一刻」「らんま1/2」といった作品が80年代にアニメ化されて人気を博したが、ストーリーもさることながら、コミカルな面とシリアスな面が入り交じる主題歌などにも、くすぐったい温度感のロマンとムードがあった。降幡には、そんなところで得た〈素養〉があったわけだ。音楽制作が進むなかでどんどん意欲的になっていったとも語る彼女は、降幡ワールドのバックボーンとなっている音楽をより深く探るようになり、そこで自分自身にフィットするものをたくさん見つけていく。

 「それこそいま流行のシティー・ポップにも行き当たって、竹内まりやさんを聴いて、自分がステージに立って歌うならこういうジャンルの音楽がやりたいって率直に思ったんです。80年代の音楽は、女性シンガーの作品をよく聴くんですけど、女性の強さ、というよりもしたたかな心情に惹かれます。〈一歩引いてるけど、私はすごくあなたのことを思ってます〉みたいな。松任谷由実さんや中島みゆきさんも、女性のそういった心情を描くのが素晴らしく上手いなと思いました。そこに憧れるっていうわけじゃないですけど、自分が体験していない世界というか、自分と違う世界だなって思うと、むしろそういうものを表現したいなって思っちゃいます」。

 歌詞はすべて彼女自身によるもの。作詞はソロ・デビューをきっかけに始めたそうだが、あの時代特有の感覚を彼女なりにキャッチしながら、言葉を編んでいるところがニクい。

 「最初は露骨にそれっぽい単語を入れようとか考えていましたけど、徐々に自分の言葉になっていって……ただまあ、いまだに意識はしています。80年代とか90年代のヒット曲ってすごく貪欲な人たち、〈オレはこれで売れてやるぜ!〉みたいな感じのヴァイブスを感じるというか(笑)、私は主に恋愛の詞を書いてますけど、そういう〈欲〉みたいなものも出したいなっていう意識はありますね」。

 そんなふうに彼女が先に詞を書き、本間がメロディーを乗せ、アレンジを施していくというのが楽曲制作の流れだ。

 「最初のころは〈こういうサウンドをイメージして書きました〉とかお伝えしていたんですけど、いまは、自分が考えてることだったり好きなことだったりっていうのを本間さんも理解してくださっていて、あまり伝えなくても出来上がったものがそれ以上のものになって、結構びっくりしてます。セカンド・ミニ・アルバムの『メイクアップ』に入っている“真冬のシアーマインド”では、詞を送った段階で本間さんが〈もう音が鳴ってる〉って言ってくださって、そのときはマジで超嬉しかったです(笑)」。

 シティー・ポップを筆頭に、80年代的な意匠を凝らしたサウンドは昨今珍しくないが、このチームが創り出すサウンドは、そのなかに紛れることのない色味がある。

 「イマドキの80年代的な音には、イマっぽいデジタル感とかクラブっぽいニュアンスが入っていますけど、本間さんが本気の80年代マインドみたいなところでやっているからこそ、ひとつ浮いてるような感じはしますね」。