与那国のわらべうたが誘う懐かしくて味わい深い世界

 すこぶる文化的価値のある作品なのだが、その音楽が備えた愛嬌度の高さや親しみやすさばかりに気をとられ、ついつい微笑んでしまう。そんな性格を持つアルバム『ハララルデ~与那国のわらべうた~』を作ったのは、太田いずみ、與那覇桂子、與那覇有羽の3者。どぅなん(与那国)の暮らしのなかから生まれ、多くのどぅなんとぅ(与那国の人)たちに寄り添ってきた多彩なわらべうたを出来る限りプリミティヴなスタイルで歌唱した本作は、屈託のないうたの向こうに浮かぶ様々なストーリーが何かと心を揺さぶらずにおかないのも聴きどころのひとつだ。アルバムのディレクション役も務めた太田いずみに話を訊いた。

太田いずみ, 與那覇桂子, 與那覇有羽 『ハララルデ~与那国のわらべうた~』 RESPECT RECORD(2021)

 「高校で八重山全域の民謡などに幅広く触れ、大学でも琉球筝曲を専攻し、琉球古典音楽にどっぷりハマったんですが、与那国の訛りが出過ぎると先生にいつも怒られていて。でも与那国に帰ると〈あんたの歌は面白くなくなったね〉って言われる。私の芸って宙ぶらりんだなって感じる時期がずっと続いていたんです」

 そんな彼女の気持ちを察していた兄の有羽が彼のアルバム『風の吹く島~どぅなん、与那国のうた~』への参加をオファーする。自身のルーツとじっくり向き合う機会を得た彼女は自分の中でたしかに何かが開く感覚を得るのだが、そこで掴んだものをより鮮明化させたのが本作の制作だったようだ。歌詞やメロディの検証など骨の折れる作業が続くなか、一番苦労したのは〈言葉・発音〉の問題だったという。

 「テンポや音程は耳を鍛えて練習すればなんとかなるけど、与那国語独特のアクセントを習得するのはかなり難しい。私たちはネイティヴな与那国語が話せないから、熟練した先輩の歌と比べるとどこか違う。でも〈与那国〉と名付けたからにはその土地ならではの雰囲気を出さなくてはいけない。結局何が正解かわかりませんが、これが私たちの限界、と言えるところまで追求したつもりです」

 いまでは 「与那国に生まれてなかったら、音楽をやってなかっただろうな」と話す彼女だが、探求心と情熱を目一杯燃やして作り上げた〈正真正銘の与那国のうた〉は、自身の根っこにあった確かなものを見極めるきっかけを与えたことは間違いない。それにしても、彼女たちの人懐っこい歌声が絡み合って生まれる人情味や郷愁はいわく言い難い魅力があり、繰り返し噛みしめたくなる中毒性が備わっているのだ。

 「人の思いを伝える術としてのうたってすごいなと改めて思います。人間の喉に声を出す機能が備わっていて良かったなと正直思いますね(笑)。アカペラというスタイルもやっぱり素朴だからいいのかなって。これを聴いた島の先輩で、ありがとう~って泣いてた方もいましたよ」

 


LIVE INFORMATION
Live At Home from Koza City
コザ・宮古・与那国 魅惑の島唄 夢の共演

2022年3月13日(日)沖縄・ミュージックタウン音市場
開場/開演:16:00/17:00
出演
音楽監督:小浜司
与那国島:與那覇有羽(歌/三線)/與那覇桂子(歌/島太鼓) /太田いずみ(歌/三線) ほか
http://www.respect-record.co.jp/