多彩な楽器を使い、登場人物の多い大河ドラマに新鮮な風を送り込むエバン・コール
貴族の社会が終わり、武家の時代となる平安時代末期から鎌倉時代を描く2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』がこの1月9日からスタートした。これまでに『新選組!』『真田丸』の2作品を手がけた三谷幸喜の脚本も話題となっているが、源頼朝ではなく、それを支えた北条氏、特に北条義時(小栗旬が演じる)を主人公としている点にも注目が集まっている。そして音楽は、アニメーション映画『ジョゼと虎と魚たち』、熱狂的なファンも多い『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズ、またNHKでは土曜時代ドラマ『螢草 菜々の剣』(2020年)、『サタデースポーツ/サンデースポーツ』などを手がけて来たアメリカ出身で日本在住の作曲家エバン・コールが担当している。長野県在住の彼とオンラインで繋いで、今回の大役について伺った。
「大河ドラマのオファーが来た時には、『ええ!? 本当ですか!?』という感じで、驚いて興奮しました。いつかは手がけたいと思っていた作品でしたし、大河ドラマそのもののファンでもあったからです」
とカメラの向こうで楽しそうに語るエバン。
「大河ドラマを初めて観たのは『天地人』(注・2009年放送)でした。まだ日本語も全然分かりませんでしたが、そのドラマの迫力というか、スケールの大きさにひかれました」
今年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』をすでにご覧になった方も多いと思うが、冒頭から昨年までの大河ドラマとちょっと違う点があるのにお気づきの方もいただろう。それがドラマ冒頭で流れるメイン・テーマの部分だ。
「実は、これまでの大河ドラマのメイン・テーマよりも、今年のテーマ音楽は短いのです。主要なキャストが紹介された後、ナレーションが入って、ドラマ本編につながっています。だからメイン・テーマの音楽もギュッと詰め込んだスタイルになっているのです」
とても流暢な日本語で語り続けるエバン。彼はアメリカのバークリー音楽大学を卒業してから、まず観光ビザで日本に来日し、その後、日本での音楽活動を行うようになった。日本語はその間に習得したというのだが、こうしてインタヴューするのにもまったく問題が無いほど、スラスラと質問に答えてくれるのに正直驚いてしまった。さて、そのメイン・テーマだが、例年と同じようにNHK交響楽団が演奏している。今年の指揮は日本の中堅世代を代表する存在となった下野竜也がタクトを取った。
「その録音にも立ち合いましたが、本当に素晴らしいオーケストラによって自分の音楽が再現されているということを実感しました。もちろん下野さんとも意見交換をして、様々なアドヴァイスを頂きました。本当に細かな点にも注意してくださり、ここの管楽器にはちょっとアクセントがあった方が良いよ、とか丁寧にスコアを読んでくれて、演奏に活かしてくれました」
メイン・テーマは毎回、必ず冒頭で流れる訳だから、ドラマの印象を左右するとても重要な音楽であるが、今回の音楽の中で印象的だったのは、やはり“声”が使われていることではないだろうか。
「これは坂東武者の雄叫びを表現したかったからです。このドラマの中心は、やはり坂東武者たちが立ち上がり、それが日本の歴史を動かして行くという点にあると思ったので、男声合唱を入れようというアイディアが出てきました。一方で、ドラマの“語り”は女優である長澤まさみさんが担当されます。そこで、男声だけではなく、女声も音楽の中に入れたいと考えました。その時に思い付いたのが、インド出身でR&B、ソウルミュージックなども歌っている女性歌手teaのヴォーカルも音楽の中に取り入れること。よく聴いて頂くと、ドラマの語りの後に女性のヴォーカルが流れて来る、そんなシーンも出て来ますよ」