巨匠から巨匠へ。受け継がれるアフロ・ブラジル  豊潤のメロディとリズム。

LETIERES LEITE, ORKESTRA RUMPILEZZ 『Moacir De Todos Os Santos』 Rocinante/Tres Selos/THINK!(2022)

 おそらくこの拙文が掲載される頃には粗方語り尽くされていると思われやや筆が重いのではあるが書かぬ訳にはいかない超注目作。ブラジルはバイーア生まれの作編曲家にしてサックス/フルート奏者、最近だとカエターノの新作『メウ・ココ』にも参加しこれまでイヴェッチ・サンガローやゼ・マノエウなど多数のアーティストを支えてきた巨匠レチエレス・レイチの生前最後の作品。今回はブラジリアン・ジャズ/クロスオーヴァーなブルーノート作が名盤として知られ、巨匠はもちろん近年ジョアナ・ケイロス擁するクアルタベが楽曲集を出すなど後生にも多大な影響を与えているモアシール・サントスの1965年作『コイザス』をまるっとカヴァーしたアルバムだ。このオーケストラでの新作は6年ぶりか。管楽器と打楽器から成るオーケストラを従え、ジャズや西洋音楽の理論を用い、アフロ・ブラジルのリズムの可能性を広げた前作は当時ブラジル器楽の常識を打ち破ると評されかなりの衝撃をもって迎えられた記憶があるが、本作はそれにも勝る素晴らしさ。そもそも『コイザス』という作品がジャズやクラシックといった西洋要素とポリリズムを多用したアフロ・ブラジルのリズム、メロディを融合したハイ・クオリティーなインスト名作なのでアップデートの余地はなさそうだし方向性も巨匠と近い分どう更新するのかとおもっていたが、新しい景色が見えました。巨匠のインタヴューにもあるようにリズムのバラエティーが驚くほどに豊か。土着的なものと繊細なジャズのビートが自在に行き交い、歌に寄り添うときも生命力に溢れ、力強いパーカッションのソロ、即興的に躍動するドラムなどなど終始耳が離せない。この企画、巨匠のかねてからの夢だったそうで、それがこれだけ素晴らしいかたちで結実したことは特別感慨深いものがある。名曲“Nana”にはカエターノ・ヴェローゾが参加。

 


Track List
1. Coisa nº 4 feat. Raul de Souza
2. Coisa nº 8 feat. Joander Cruz
3. Coisa nº 9 feat. Marcelo Martins
4. Coisa nº 1
5. Nanã feat. Caetano Veloso
6. Coisa nº 7
7. Coisa nº 2