優しく甘く、滑らかな語感がまとう不思議な浮遊感。カエターノの歌唱は80歳を迎えたいま神憑かっているというか仙人めいているというか。あの大傑作『アブラサッソ』から9年以上を経て発表される新作。コロナにより身動きのとれなかった1年間、脳内=メウ・ココで精製あるいは熟成させた湧きたつ創造力はギターと歌によって骨格化され、末子トンとドニカで活動するルーカス・ヌネスはじめ長男モレーノ、ジャキス・モレレンバウムといった多彩なメンバーにより中東やポルトガル音楽、バイーアの多様なリズム、オーケストラを交え、さらにデジタルと生の垣根も超えて最小の音数で鮮烈な肉付けが施されている。