テルミン姓の逆読みは「HE MPET(不死の意)」なんだとか。
資料が乏しかったテルミンの仔細な説明や、紆余曲折に富んだ発明者自身の人生行路も紹介しつつ、「不思議楽器」をめぐる何とも特異な歴史的背景に光を当てたロバート・モーグの論文(1992年発表)。「これは私に大きな感銘を与え、どこか悲しげなテルミンの調べは、まるで発明者の悲運を反映しているかのように感じられた」とは、のちに自ら『テルミン-エーテル音楽と20世紀ロシアを生きた男』を著した竹内正実の前書きにある言葉だ。続いて「若き日のモーグは電子楽器テルミンの組み立てキットを製造販売しており、この成功によってのちのモーグ・シンセサイザー開発へと進む指針が与えられたことは興味深かった」と綴った竹内自身が、やがてマトリョーシカ型テルミンのメーカー代表を務め、その「マトリョミン」を総勢272名で合奏する世界記録に挑んで見事樹立(2013年)したという連鎖が面白い。テルミンの血縁にして愛弟子のリディア・カヴィナに師事する為、竹内は1993年に渡露。その年は注目のドキュメント映画『テルミン:エレクトロニック・オデッセイ』が完成し、11月に英国のテレビで初公開され、奇しくも放送翌日に当のレフ・テルミンが逝去(享年97)。在モスクワの竹内はチャイコフスキー没後100年記念コンサートからの帰宅直後、関係者からの電話で訃報に触れたという。カヴィナから伝家の演奏法を教わる際にはテルミン自身が晩年に製作したものが用いられたそうだが、発明者本人との面会はついに成就しなかった。
そんな日本生まれの継承者が“悲運”に見舞われたのは2016年のクリスマスの日、コンサート出演中の彼は聴衆の面前で脳出血を発症…後遺症として右半身に麻痺を宿した。その後、満足のゆく演奏を求めて左右の手の役割をチェンジした「左利き」スタイルで果敢に活動を再開し、現在話題沸騰中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の後、ゆかりの地を紹介する番組『大河紀行』で幽玄なテルミン演奏を担当している。
左右其々の「腕に染みついた記憶」に邪魔をされながらのリハビリに励む毎日だが、12月5・6日には待望の『竹内正実(電子楽器テルミン)復活のライブショー』(大阪公演・東京公演)が控えている。二部構成で前半は国府弘子ら共演歴ありのピアニスト勢とトーク&演奏を、後半は注目のバンド編成でテルミン演奏の新境地に挑む内容だ。直系演奏法の継承者が「左利きの未来」を奏でる、不死身の音像を体感しに行こう!
LIVE INFORMATION
竹内正実(電子楽器テルミン)復活のライブショー
2022年12月5日(月)大阪・心斎橋 Music Club JANUS
開場/開演:19:00/20:00
2022年12月6日(火)東京・目黒 BLUES ALLEY JAPAN
開場/開演:19:00/20:00
■出演
一部:竹内正実(テルミン)/吉冨淳子(ピアノ)/国府弘子(ピアノ)/ただすけ(ピアノ)/岡留美(ピアノ)
二部:竹内正実(テルミン)/ただすけ(ピアノ)/齋藤たかし(ドラムス)/平石カツミ(ベース)/アエロ・エレクトロ・マトリョーシカ:濱口晶生、鈴木雄也、佐村田紗千(マトリョミン・アンサンブル)
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