〈タイのシンセポップの女王〉と呼ばれるシンガー、イン・ワラントンをご存知だろうか? 本国ではなんと1万人規模のアリーナ公演をソールドアウトさせるほどの人気ぶりで、YouTubeでの全シングルの総再生回数は2億8,000万回以上、タイの女性アーティストの人気ランキングでは常に上位に食い込む存在だ。また、ファッションブランドのプレゼンターやインフルエンサーとしても活躍、Spotifyのプロジェクト〈EQUAL〉で世界の女性アーティスト35人に選ばれ、国内外の賞を多数受賞するなど、シンガーとしてのみならず国際的なカルチャーアイコンとして注目を集めている。

そんなイン・ワラントンの音楽の魅力は、伸びやかな歌声と80年代の香りがするシンセポップサウンドとの相乗効果で、現代的なフレッシュさとノスタルジーが素晴らしいバランスで絡み合わさっていることだろう。彼女のシンセポップサウンドは、たしかに昨今のシンセウェーブやドリームポップ的な甘い幻想性に満ちている。とはいえ、そのサウンドは、日本や世界のリスナーには〈シティポップ〉と説明したほうが馴染み深いかもしれない。シンセが敷き詰められた音像、ファンク&フュージョン的なギターや電子ビートは、まさに〈クリスタルな〉と形容したくなるものだからだ。

去る11月9日、彼女の日本デビュー作『bloom.』がリリースされ、来日公演とTOWER VINYL SHIBUYA(タワーレコード渋谷店)でのサイン会も行われた。聞くところによると、『bloom.』は情報解禁されるやいなやタワーレコード オンラインへ注文が殺到し、アナログ盤は瞬殺されてしまったのだとか。おそるべし、イン・ワラントン。

と、日本でもデビューと同時に人気のほどを見せつけている彼女の、名刺代わりの一枚になるのがこの『bloom.』だ。本作には5曲が収録されており、冒頭と最後は日本のバンド、THREE1989とのコラボレーションシングル“Last Train”の日本語とタイ語の2バージョン。“Last Train”に日本語曲“YOU?”“CALL ME”“STAY”(いずれもオリジナルはタイ語)が挟まれる構成になっている。

“Last Train”は、YouTubeで100万回近く再生されるほどのヒットを記録している16ビートのグルーヴィーなダンスナンバーで、あの“プラスティック・ラブ”を思い出さなくもない。THREE1989のShoheiとのデュエットも見事。続く“YOU?”は、いかにも80年代なシンセサウンドがイン・ワラントンらしく、切ないメロディーもあいまって、彼女の個性を確実に伝える曲。丸みを帯びた日本語の発音は美しく響き、ど派手なギターソロも〈あの時代〉らしい。“CALL ME”は、トラップのニュアンスもある現代的なポップソングだが、オーケストラルヒット(!)もバキッとキマる。〈いいですか?〉と問いかける歌にぐっと惹きつけられる、キュートな魅力が詰まった一曲だ。本編ラストの“STAY”は、ドリーミーなミディアム。タイ語を歌っているときとは異なる情感の表現が感じられるボーカルにご注目を。

イン・ワラントンは、9月にタイでフルアルバム『INK』を発表している。冒頭のプリンスへのオマージュからしてニヤリとしてしまう力作で、こちらも文字通り彼女の才能が花開いた素晴らしい仕上がりだ。今回の『bloom.』で彼女のことが気になった方は、〈エンタメOVO(オーヴォ)〉や〈タイランドハイパーリンクス〉のインタビューを読んで、『INK』も併せて聴いてほしいところ。

 


RELEASE INFORMATION
リリース日:2022年11月9日

■CD
品番:FBAC-178
仕様:紙ジャケット
価格:2,500円(税込)

■LP
品番:FBAL-003
価格:5,000円(税込)

TRACKLIST
1.LAST TRAIN feat.THREE1989
2.YOU?
3.CALL ME
4.STAY
5.LAST TRAIN feat.THREE1989 (THAI VERSION)

 


PROFILE: INK WARUNTORN
タイ女性アーティストランキングで常に上位に入るイン・ワラントン・パオニン。YouTubeでの全シングルの総再生回数は2億8,000万回以上。ファッションアイコンとして、多くのブランドのプレゼンターやインフルエンサーとしても活躍している。〈シンセポップの女王〉と称される彼女の歌声と80年代の香りがするシンセポップは唯一無二。性別や年代に関係なく聴かれてファンの心をつかみ、毎回ヒットチャートに名を連ねる。〈コムチャットルック・アワード〉〈The Guitar Mag Awards〉〈Joox Thailand Music Awards〉といった国内の多くの賞を獲得、海外では〈Met Asian Music Awards〉に輝き、国際的な舞台でも注目されている。