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――でも、民謡的、民族色的なものにとどまらない感触が今回の音楽にはあります。

「今回は制作側からの要望もあって、各キャラクターの曲を明確に作りました。サウンドトラック盤の2曲目“アゴの如く”は、ばんばのテーマです。4曲目の“Thermalにのって”はバーンスリーを使った空を飛んでいる曲。5曲目“Believe myself”は舞ちゃんが自分を信じて進もうという曲。6曲目“空をみあげて”は舞ちゃんのテーマ。7曲目“コックピットから見えるHome”は岩倉家のテーマ。8曲目“ジェットストリームな教官”は航空会社のクセのある教官(吉川晃司)のテーマ。9曲目“ウイングを広げて”はお父さん(高橋克典)の事業拡大の音楽。10曲目“およ!”と12曲目“遥かなる五島”は五島のための曲。11曲目“なにはバードマン”は人力飛行機サークルの曲。14曲目“愛する人よ”はお母さん(永作博美)のテーマ。19曲目“大切なクルー”は久留美ちゃん(山下美月)のテーマ。20曲目“トレーダーお兄ちゃん”は舞ちゃんの兄・悠人(横山裕)の曲。22曲目“ネジと飛行機”はお父さんのテーマ。25曲目“放浪の歌人”は貴司(赤楚衛二)の曲。28曲目“サラブレッドなパイロット”はパイロット一族の息子・柏木弘明(目黒蓮)のテーマ、といった感じです。

こういうふうに人物のテーマをちゃんと作ったことはほとんどありません。だいたいシチュエーションにつけることの方が多いです。でも、やってみたら楽しめましたし、変な言い方に聞こえるかもしれませけど、笑いながら作っていました(笑)。人に音楽をつけるって面白い! ジャズとかの曲調が出てくるのはその人のイメージから生まれた感じです」

――そういうキャラクターのテーマが土台にあるということで、曲を発展させやすくなるメリットもあるような気がします。

「舞ちゃんでいうと、同じメロディを使いながら、少女時代にはリコーダーやオカリナを、20代ではフルートやオーボエを使っています。これから年齢を重ねていくと、もっと大人っぽい曲調になっていく予定です。ひとりの女性の成長を描く物語で、音楽も一緒に成長させてもらえたら嬉しいなと思っていましたけど、本当に成長させていただいている感じです」

――長崎出身の作曲家といえば、富貴さんのご友人でもある大島ミチルさんがいらっしゃいますし、その大島さんといえば隠れキリシタンゆかりの祈り〈オラショ〉を題材にした男声合唱組曲“御誦(おらしょ)”を学生時代に発表されています。

「〈オラショ〉を入れてみたいなと考えたことはありました。ただ、〈オラショ〉は男性のもので、女性は唱えてはいけないし、すごく重いものです。聴いていても苦しいですよね。ちゃんと理解しないと失礼に当たりますし、生半可な気持ちでは書けません。そうやって考えていったら、今回(のような女性が主人公の作品で)は違うかなと思って、代わりに隠れキリシタンの聖歌や民謡を選んだところはありますね。

大島さんの“御誦”は『舞いあがれ!』の音楽を考えていたとき、ずっと聴いていました。もし実際に〈オラショ〉を使おうとしたら、ミチルさんに電話をかけて相談していたかもしれません。〈どうしよう〉って(笑)」

――〈空を飛ぶ〉という部分でいけば、たとえばハリウッド映画などではフレンチホルンを使うことが定番になっています。でも、この「舞いあがれ!」ではあえてそれを避けているかのような感触もあります。

「ホルンは(作曲構想の中で)鳴ったんですけど、何か舞ちゃんじゃない気がしたんです。舞ちゃんはもうちょっと繊細だし、優しい。今の時代にいるのかなっていうくらい純粋で明るい人。

そんなストレートな人をまっすぐな気持ちで表現したいと考えたとき、やっぱり自分の場合はピアノじゃないかなって。小さいときから慣れ親しんでいて、いつもそばにあった楽器。私の中の王道といえばピアノなんです。でも、ピアノ弾きなのにピアノをメインテーマに持ってきたことって、今までほとんどなかった。結構、オケ(オーケストラ)に行くタイプというか、怖かったんですね。避けてきたんです、ピアノを。あえてやってこなかった。でも、今回は自分の楽器で真っ向勝負しようと。

この『舞いあがれ!』の前に『そして、バトンは渡された』(2021)という映画をやったんですけど、それがピアノの物語で、ピアノと対峙するしかなかったんです。そのとき〈自分の楽器はピアノなんだ〉って思い知ったところがありました。使ってみたら心地よくて、あらためて自分の楽器なんだなって。それもあって、今回、ピアノを主軸にしていこうと思いました」

――放送はご覧になっていますか。

「リアルタイムで見ています。毎朝、どう音楽が付いているか、楽しみです。(音楽は)日本映画のように付けられているように感じますね。ハリウッド映画みたいに全体的にベタッと貼られているのではなく、音楽を付けた後、そこから抜いているような。音楽のある場所、ない場所がハッキリしていて、新鮮に感じますし、丁寧に扱っていただいていると思います。音響さんは3人いらして、それぞれ(音楽の使い方が)違いますけど、的確ですし、(見ていて)面白いです。

演出家さんも毎回、違うんですけど、今では名前を見なくても、今週はどの方がやっていらっしゃるのか、違いがわかるようになりました。それぞれの演出家さんでお好きなテンポ感、音楽の使い方がありますよね。そんな面白さは『マッサン』のときにも感じていたことです」

――クライマックスに向けて「舞いあがれ!」の音楽録音は続いています。

「五島に行ったのが2022年3月末で、そこから帰ってきた4月から音楽を書き始めて8ヶ月くらい経っていますけど、今も飛び続けている感じですね。毎日、視聴者のみなさんと一緒に飛び続けています。この先、どこに舞いあがっていくんだろうって。私自身、このドラマがどう着地するのか、楽しみですし、音楽としてもいいゴールが迎えられたらいいなと思っています」