時代を先取りしたサウンドとルーツに根ざした洋楽カバー
アルバムはリンドラムを駆使したテクノチューン“FALL IN LOVE”から。元・東北新幹線の山川恵津子の提供“T.N.T.”の斬新ファンクロックは、今でこそプリンスやザ・タイムにインスパイアされたと気づくが、時期を考えると相当に早い。前者は当時ザ・スクエア(現T-SQUARE)にいた安藤まさひろ作と知って愕然としたが、本作中一番AORしていて昨今再評価のマトになっている“SAY CHEESE”も同じ安藤のペンだから、このギャップの大きさに再度ビックリ。笹路がどれだけ自由な制作ワークを施したか分かる。タイトル曲“SAHARA”でも、シャープなホーンと当時の最先端サンプラー:イミュレイターを併用し、時代を先取りしたアーベインなポップファンクに仕上げた。
洋楽カバーが3曲用意されたのも、彼女が出自に自覚的だった証し。カーペンターズで有名なロジャー・ニコルス&ポール・ウィリアムスの共作“愛は夢の中に(I WON’T LAST A DAY WITHOUT YOU)”は、ミニマムなリズムにストリングスが乗る。流麗なストリングスのイントロに導かれたチャップリンの映画メドレーでは、あの“SMILE”をデジタルなビッグバンド仕様で。そしてリオン・ウェアがミニー・リパートンと歌い、R&Bスタンダード化した“IF I EVER LOSE THIS HEAVEN”は、コーラスとホーン、ネイティブ・サン峰厚介(当時)のサックスソロをフィーチャーしたソウル色全開のスタイル。
サウンドトライアルが蘇る価値あるリイシュー
デビュー作なのでリエ嬢のボーカルは初々しい。が、多彩なサウンドを柔軟にこなしているあたり、将来が楽しみな存在だったが、何故か後続作は出ずじまい。……とはいえ、笹路とそのファミリーが繰り出したサウンドトライアルの面白さがこうして蘇っただけでも、価値あるリイシューなのは間違いない。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2022年12月14日
品番:VPCP-86433
解説:青木啓(1984年当時のものを再録)・栗本斉
価格:2,970円(税込)
2022年リマスタリング/タワーレコード限定販売
TRACKLIST
1. FALL IN LOVE(作詞:Linda Hennrick 作曲:安藤正容 編曲:笹路正徳)
2. SAHARA(作詞:Linda Hennrick 作曲・編曲:笹路正徳)
3. EVERY SONG I SING(作詞:Linda Hennrick 作曲・編曲:笹路正徳)
4. I WON’T LAST A DAY WITHOUT YOU(作詞・作曲:Paul Williams/Roger Nichols 編曲:笹路正徳)
5. T.N.T.(作詞:Linda Hennrick 作曲:山川恵津子 編曲:笹路正徳)
6. ETERNALLY(Instrumental)(作曲:Charlie Chaplin 編曲:笹路正徳)
~SMILE(作詞:John Turner/Geoffrey Persons 作曲:Charlie Chaplin 編曲:笹路正徳)
7. SAY CHEESE(作詞:Linda Hennrick 作曲:安藤正容 編曲:笹路正徳)
8. I’M THE ONE FOR YOU(作詞:松本リッキー康男 作曲:村上リエ 編曲:笹路正徳)
9. IF I EVER LOSE THIS HEAVEN(作詞:Pamela Sawyer 作曲:Leon Ware 編曲:笹路正徳)
10. TAKE ME HOME(作詞:Linda Hennrick 作曲:稲田保雄 編曲:本田竹広)
Produced & Arranged by 笹路正徳
(10)Produced & Arranged by 本田竹広
■参加ミュージシャン
村上リエ(ボーカル)/笹路正徳(キーボード/シモンズ/パーカッション)/土方隆行(ギター)/渡嘉敷祐一(ドラムス)/辻野リューベン(ドラムス)/青山純(ドラムス)/高水健司(ベース)/富倉安生(ベース)/坂井紀雄(ベース/コーラス)/本田竹広(ピアノ)/峰厚介(サックス)/中川昌三(フルート)/数原晋(トランペット/フリューゲルホルン)/横山均(トランペット)/Jake H. Concepcion(サックス)/西内保夫(トロンボーン)/西山健治(トロンボーン)/村田有美(コーラス)/EVE(コーラス)/梅野貴典(エミュレータープログラミング)……etc.