名曲“サマージャム’95”を収めたスチャダラパーの5作目『5th WHEEL 2 the COACH』。1995年4月26日にリリースされた本作は、スチャダラパーのキャリア屈指の名盤であるだけでなく、日本語ラップ史上最高のクラシックの一つに数えられる傑作だろう。そんなアルバムについて彼らを現在も追いかけているライター/エディター高木“JET”晋一郎に論じてもらった。 *Mikiki編集部

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スチャダラパー 『5th WHEEL 2 the COACH』 イーストワールド/東芝EMI(1995)

 

“DA.YO.NE.”“ブギー・バック”のヒット、〈MASS対CORE〉が醸成された1995年

〈『5th WHEEL 2 the COACH』から30周年〉をテーマに、このテキストの依頼を頂いたのだが……30年! その時間経過に慄きつつ、『5th WHEEL 2 the COACH』(以下『5th~』)が未だに聴き続けられていることの凄味、分析を求められることの需要度、そしてSDPが未だに現役でライブや制作を進めてオリジナルな道を開拓しているタフさに、改めて感動させられる。

さてこの当時、スチャダラパーが表紙巻頭を飾った「ROCKIN’ON JAPAN」誌の1995年8月号(VOL. 100)を見ると、表2にはTHE BLUE HEARTSの解散とラストアルバム『PAN』のリリース告知が掲載されている。中面ではBO GUMBOSの解散ライブがレポートされ、時代の大きな節目だったことを感じさせられる。一方、SDP以外にラップやヒップホップとして載っているのは、DJ KRUSHとMELLOW YELLOWのみ。94年のEAST END × YURI“DA.YO.NE.”の大ブレイクや、小沢健二+SDP“今夜はブギー・バック”のスマッシュヒットがあったものの、世間的にはまだラップ/ヒップホップの注目度は低かった証左ともいえるだろう。

それは“DA.YO.NE”と“ブギー・バック”の余勢を駆って制作されたであろう、キューン発のコンピ『今夜は“ラップ”ダヨネ。』(ナメすぎててシラフで考えたとは思えないタイトルだな……)の構成からも伺い知れる。コンピには上記2曲に加え、ECDや高木完、SDPやTOKYO No.1 SOUL SETがメンバーとして所属していたクルー:LB Nationから脱線3の楽曲がピックアップされた。一方で、俳優としても高名なモダンチョキチョキズの濱田マリや、真心ブラザーズのYO-KINGもメンバーだったエレファントラブなど、いわゆるヒップホップシーン外の作品も収録。

ECDや脱線3と同じく、ソニー傘下だったファイルレコードから作品をリリースしていたにもかかわらず、RHYMESTERやキミドリ、ZINGIなどが選ばれなかったことからは、当時の〈ラップに対するバリュー〉を考えさせられる。また、恐らくこのコンピのために制作された石野卓球“BRUCE AND RHYTHM”にピエール瀧がラップを乗せる、完全にやっつけ仕事感のある人★生名義での“四番打者なのダ!”での、「なのだ~志村~ペドロ~」という、完全な〈からかい〉からは、当時の“DA.YO.NE”の取り扱われ方も透けて見える。

一方で、インディで同年にキングギドラ(SAGA OF K.G.)“未確認飛行物体接近中”が収録された『THE BEST OF JAPANESE HIPHOP VOL. 2』、ラッパ我リヤやネイキッドアーツが収録された『悪名』がリリース。コンピ以外でも、MICROPHONE PAGER『DON’T TURN OFF YOUR LIGHT』、キングギドラ『空からの力』、RHYMESTER『EGOTOPIA』、そして“MASS 対 CORE feat. YOU THE ROCK★ & TWIGY”が収録されたECD『ホームシック』がリリースされ、〈アンダーグラウンドVSメジャー〉という空気が醸成されつつあった。