もう〈亡霊=過去の自分〉に執着している場合じゃない

――ソロアルバム制作にあたって、新たに挑戦したみたいと思っていたことはありましたか?

「僕はリスナーとしてミーハーなので、〈こういうトレンドを入れてみたい〉とか〈小洒落た曲をつくってみたい〉とか、当初はいろいろ考えていました。ただ、そこに興味本位で手を出しても中途半端なものしかできない。それはダサいと思って、自分がかっこいいと思えるロックを恥ずかしがらずにやってみようと思いました。自分の根本にあるのはロックミュージックなので」

――確かに、今回のアルバムではロックミュージックを純粋に楽しまれている印象を受けました。変に気を衒わず、自分のルーツにあるものをまっすぐに打ち出していこうという思いがあったんですね。

「それをしないと、〈俺がひとりでやる〉というテーマが崩れちゃう。昆虫キッズ時代は、様々なジャンルにアンテナを張って、いいとこ取りをしたいという欲求がありました。その分、楽曲のバラエティーは豊かになるけど、裏を返せば散漫になっていた部分もあって。それを経験したからこそ、今回はシンプルで密度のある作品に仕上がったんだと思います。それでも、同じ音楽家がつくっているという点では、昆虫キッズ時代と地続きだとは思いますが」

――過去のバンドと地続きな作品であるという点は、今作の歌詞からも感じられました。高橋さんの書く歌詞は、〈錆びたガードレール〉〈室外機〉といったリアリティーのある言葉と、〈妖精〉〈幽霊〉といったファンタジックなイメージを対比することで、都会の片隅で生きる人々の寂しさ、そして、ささやかな希望を描いているように思います。今作の歌詞を書くうえで意識したことはありましたか?

「歌詞は曲ありきの言語なので、メロディーとの兼ね合いが重要ですよね。ワードのフィット感や歌い回しを考えて、ジグソーパズルを作るような作業。だから、書いているときにはそこまで深い意味を考えてはいないです。

そういえば改めて今作の歌詞を自分で見返したときに、別れに対する表現が多いなあと。3曲目の“Goodbye Fantôme”なんかは、タイトルからモロに」

――高橋さんは昆虫キッズのときにも、ニュアンスの近い〈GHOST〉という言葉を使われていましたよね。

「僕のイメージで〈亡霊〉や〈幽霊〉という言葉は、過去の自分だったり死別とは異なるもう会えない人たちの象徴なんです。それこそ自分の昔の曲では、別れや終わりに対するどうしようもない悲しみが表れていたように思います。

でも、今作では同じような解釈ではなくしっかり受け止めたら次にいこうと、そう考えたらポジティブなイメージに変わりましたね。過去に執着している場合じゃないぞっていう」

 

言いたいことを乱射した“戯言”

――今作で特にアップデートを感じたのが、ラストトラックの“戯言”です。シンセサウンドのうえにポエトリーリーディングに近いリリックがのる、新境地を思わせる楽曲でした。

「“戯言”は構想段階から性急なトラックに乗せて言葉を乱射するってことをやりたくて。自分が思いついたことや言いたいことだけをぶち込んだらどうなるのか楽しみでした」

――ラップミュージックなどと比較すると、ロックは詰め込める言葉の量に制限がありますよね。

「日常的に歌詞のフレーズや断片を思いつくとメモを取ってて、パーツだけを凝縮させたらどうなるんだっていう。メモ書きのコラージュ集ですね」

――新しい試みのなかで、発見はありましたか?

「“戯言”をつくってみてわかったのは、言いたいことがなんでも言えちゃうと、ニヒリストみたいになって、改めて自分は世界一性格が悪いなって思いました(笑)。自由にやっていいとなると虚勢と暴力性を帯びてしまう。メロディーという制約があれば悪意を隠せるんですが、他人を攻撃したいわけじゃないので。でも、今まで伏せていた部分を表現できたという意味では良い経験になりました」

――制約を取り払ったからこそ、剥き出しの自分を見せることができたんですね。

「バンドの場合は責任もメンバーで分割できるけど、ソロだと自分の責任じゃないですか。そこに対して腹を括ったみたいな気持ちは表現できたのかなと。この曲はバンドではできなかったと思います。そして、その身軽さと苦しさこそがソロの醍醐味だと思いました」