ボーカリスト/ギタリストとして昆虫キッズを率いていた高橋翔。バンドは2015年1月に解散し、その後はELMER1000% SKYといったバンドとソロで活動してきた。そんな高橋は、ソロ作品をリリースしてこなかったものの、2022年に突如 “キセキ”“夢の隠れ家”とシングルを立て続けに配信でリリース。その2曲のアルバムバージョンを含む初のソロアルバム『イシュ』を、2023年1月18日にリリースした。ほぼひとりで、独力で作り上げた『イシュ』について高橋が語った。 *Mikiki編集部

高橋翔 『イシュ』 オフィス翔(2023)

 

〈精神と時の部屋〉で自分を見つめ直した

――ご自身のキャリアにおいて初となるソロアルバム『イシュ』は、昆虫キッズ終了から8年を経てのリリースとなりました。はじめに、高橋翔名義でアルバムを制作しようと思われたきっかけからお訊きしたいと思います。

「昆虫キッズが2015年1月7日に終わってからは弾き語りでのライブ活動やデモ音源を販売したり。その上で新曲のストックは溜まっていくので自ずとアルバム制作は見据えていて2019年には構想に着手していました。とはいえ、そこからなかなか腰が上がらず、かなり牛歩になってしまったんですが……。本格的に作業をスタートしたのは2021年の3月からでした」

――制作開始からリリースまでの期間が空いたことには、コロナ禍の影響もあったのでしょうか?

「レコーディング作業は僕とエンジニアの2人で静かにやっていたので、コロナの影響で滞るということはほとんどありませんでした。むしろ、粛々と刃を研ぐように〈精神と時の部屋〉で修行するみたいな。そういう意味で、自分という人間を深く見つめ直す、セルフセラピーのような効果がありました。

制作中は友人のミュージシャンに意見や感想を求めたりもしなかったので、リード曲の“キセキ”を(2022年1月に)配信リリースする際はとにかく緊張しましたね」

『イシュ』収録曲“キセキ”“夢の隠れ家”

――高橋さんは昆虫キッズの解散以降、ELMERや1000%SKYといったバンド名義でいくつかの作品をリリースしてきました。やはり、これまではバンドでの活動という点にこだわりがありましたか?

「もちろんバンドがやりたくて音楽を始めた人間なので、バンドに対する情熱は今もありますよ。しかしELMERや1000%SKYにしてもテンポラリーなバンドだったので、継続的な活動には至りませんでした。今回のアルバムもソロ名義ではあるけれどバンドサウンドが根底にあって自分が表現したいのはやっぱりバンドでの音楽なんだということを改めて実感しましたね」

 

〈俺がやるぜ〉というプライド

――本格的にソロで音源を制作されたのは今回が初めてとのことですが、バンドでの制作時との違いはありましたか?

「昆虫キッズは各楽器のパートをほとんどメンバーに委ねてましたね。スタジオで僕が曲の原型となるギターを弾き、それにメンバーがアドリブで追随する。そこで生まれた全体の雰囲気を細かく精査していくような制作スタイルでした。僕の中でも各パートの大まかなイメージは考えて曲を持っていくんですが、あーだこーだ指示するよりも各プレイヤーのセンスに任せたほうがおもしろくなることのほうが多かったんですよね」

――その点、今回はほとんどすべての楽器をご自身が担当されていますよね。

「自分でできないトラックとサックスは髙島連というミュージシャンに依頼して他はすべて自分で演奏しました。

頼めば手伝ってくれる上手いドラマーやベーシストもいますし、そのほうが楽曲に芳醇さが出ることもわかっていたんです。ただ、下手でもいいからできるだけ自分で演奏しようという意地があって。この未熟なプライドを貫いた結果、自分の信念が色濃く反映された作品になったので、非常に満足しています。

このアルバムに核となるテーマがあるとすれば、〈俺がやるぜ〉というところに尽きると思いますね」

――すべてがひとりでの作業となった分、苦労したこともありましたか?

「時間の経過の中で既に完パケした曲をもっと良くしたいという気持ちが出てくるんですよね。聴き返しているうちに歌詞を書き直したくなったり」

――バンドの場合、ある程度のリミットがありますが、ひとりの場合はどこまでもブラッシュアップできますもんね。

「6曲目の“DIARIES”はミドルテンポのロックナンバーですが、本来はアコースティックギター主体の軽やかな曲だったんです。ただ、聴いているうちに飽きてしまって、イチから録り直しました。中盤にゴリッとした曲がほしいと思って、魔改造したんですよね(笑)」