Page 2 / 2 1ページ目から読む

トップアイドルのコンサートを疑似体験できるライブ盤は〈夢メディア〉

『NAOKO IN CONCERT(+2)』は82年1月、日本青年館ホールでのライブレコーディング。MC中で謝っているのは、81年10月、テレビ番組のリハーサル中に舞台のセリから転落し、約2か月間、療養せざるをえなくなったからだ。ファンのみんなに心配をかけてごめんなさい、ということなのだろうが、ファンに向けて謝るべきは彼女ではなくて、大怪我を負わせてしまったテレビ番組の関係者ではないのか?

河合奈保子 『NAOKO IN CONCERT(+2)(タワーレコード限定)』 Tower to the People/コロムビア(2023)

それはさておき、『LIVE』から約1年3カ月の間に、河合奈保子はヒットを連発し、押しも押されもせぬトップアイドルのひとりになっていた。バックを務めるのは名セッションドラマー、大石恒夫(故人)ひきいる〈ザ・ムスタッシュ〉。ノリのいい伴奏に、ノリのいい歌声が乗るのだから、気持ちいい音楽になるに決まっている。洋楽曲のカバーでは、オリヴィア・ニュートン・ジョンの“そよ風の誘惑”が見事。あの、音が高いほうに急上昇していく箇所も鮮やかに歌いこなす。ステレオ感いっぱいに収録された親衛隊の応援ぶりも、しっかりサウンドの一部になっている。

さあ、ここで〈なぜライブ盤なのか? 映像作品のほうが適しているのではないのか?〉という疑問を持つ方もいらっしゃるだろう。アイドルは容姿も含めて愛でるものじゃないか。歌だけを聴くならば、別に決定版というべきスタジオテイクがあればいいのではないか?

もっともだ。が、河合奈保子がデビューした80年当時はVHD、DVD、BD、配信、ケータイなど、なにも市販されていなかった。発明すらされていないものも多かった。ベータやVHS、レーザーディスクは先鋭的なメディアとしてあるにはあったが、映画のVHSなどはまだ数万円もしたと聞く。ファンはモノラル音声のブラウン管テレビで歌うスターをフィルムカメラで撮り、テレビのスピーカーの前にラジカセを置いてカセットテープに音声を録音した。そんな時代、ジャケット写真や封入のブックレットや写真集を見ながら、コンサートの様子を疑似体験できるライブ盤(LPレコード)は、一種の〈夢メディア〉だったのだ。

 

〈お姉さん〉になった河合奈保子のクラシカルな“けんかをやめて”

『ブリリアント〈レディ奈保子 イン・コンサート〉』は82年10月、芝・郵便貯金ホールで行われたステージを収録。“エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ”、“ユー・キープ・ミー・ハンギン・オン”、“アイ・ヒア・ア・シンフォニー”などモータウン・レーベル関連楽曲がとりあげられているのは興味深い。モータウンがダイアナ・ロス、マイケル・ジャクソン、マーヴィン・ゲイ等を招いて創立25周年コンサート〈モータウン25〉を開催したのは83年3月のことだが、この時期、世界的にモータウン再評価が進んでいたのかどうなのか、気になる。

河合奈保子 『ブリリアント〈レディ奈保子 イン・コンサート〉(+2)(タワーレコード限定)』 Tower to the People/コロムビア(2023)

収録当時の最新シングル“けんかをやめて”は、弦楽四重奏(だと思われる)やハープをフィーチャーしたクラシカルなアレンジで披露。アルバム随一の聴きものとなっている。

『ブリリアント〈レディ奈保子 イン・コンサート〉』収録曲“けんかをやめて”

81年下半期には松本伊代が歌手デビュー、82年の春には中森明菜、小泉今日子、早見優、石川秀美らがそれに続いた。河合奈保子、松田聖子、柏原芳恵ら〈80年組〉は必然的にお姉さん格へ。『ブリリアント〈レディ奈保子 イン・コンサート〉』録音の頃、河合奈保子は19歳になっていた。

 

表現と歌心の深化で魅せるピアノ弾き語り

最後にご紹介する一枚『NAOKO THANKSGIVING PARTY』は、時代が思いっきり飛んで88年の収録となる。『ブリリアント』からここに至る日本の女性アイドルシーンにざっと触れておく。

1983年 松田聖子、中森明菜が大ヒットを連発。〈聖子vs明菜〉というライバル図式はこのあたりから生まれた??
1984年 岡田有希子(河合奈保子を敬愛していた)、菊池桃子(河合奈保子と同じく、読譜力のあるアイドルであった)がデビュー
1985年 斉藤由貴、南野陽子、中山美穂、本田美奈子、おニャン子クラブがデビュー。松田聖子が結婚
1986年 西村知美デビュー。岡田有希子自死。LPとCDの同時発売作品が増える
1987年 酒井法子、森高千里がデビュー。浅香唯がブレイク。おニャン子クラブが解散

『NAOKO THANKSGIVING PARTY』は、河合奈保子の満25歳のバースデーライブを収めた一作。彼女は83年からこの88年にかけて、誕生日にあたる7月24日に、野外会場〈よみうりランド オープンシアターEAST〉でバースデーコンサートを行なっていた。84年以降のそれらは映像作品としてリリースされたが(VHS、ベータ、レーザーディスクとして。83年の公演は「20th BIRTHDAY’S MEMORY NAOKO Beautiful Days in 合歓」に一部収録)、音盤として出ているのは、この88年のステージのみ。

河合奈保子 『NAOKO THANKSGIVING PARTY(タワーレコード限定)』 Tower to the People/コロムビア(2023)

バックバンドの音にはシンセサイザーが大きく入り込み、MCは風格を感じさせ、歌声はたくましい。ファンの反応も〈アイドルを応援に来ている〉感じではなく、〈歌をじっくり聴きこむため会場までやってきた〉という感じ。

ちなみにEASTは83年4月にチック・コリア率いるリターン・トゥ・フォーエヴァーで幕をあけ、5月にはマイルス・デイヴィスのバンドとギル・エヴァンスのオーケストラがダブルビル公演を開催、8月には野外フェス〈ライヴ・アンダー・ザ・スカイ〉が行なわれてソニー・ロリンズとパット・メセニーの歴史的な共演が実現した。ジャズにも大きく力を入れていたベニューで、河合奈保子は6年連続コンサートを開いたのである。

彼女は84年にLAに赴き、デヴィッド・フォスターのプロデュースで『DAYDREAM COAST』を制作している。このときに名だたるミュージシャン(ジェフ・ポーカロ、マイク・ポーカロ、マイケル・ランドウ他)のレコーディングに接し、音楽に対する意識をさらに真摯なものにしたようだ。

86年10月には全曲、自身のコンポジションでまとめた『スカーレット』を発表。クラシカルというか高踏的ですらあるサウンド作り、ジャケットに姿が一切登場しないことなどに衝撃を受け、ほかのアイドルに心が移ったファンも少なくなかったのではないかと思うが、河合奈保子の音楽表現、歌心に心から共鳴するファンはさらにこの表現の深化を見届けたいという気持ちを高めたのではないか。

ピアノ弾き語りのセクションが、とにかく深い。第一線から退いてかなりの歳月が経つけれど、生音が聴こえてくるような小粋な場所で、現在の彼女のピアノの弾き語りを味わうことができたら、それは至高の音楽体験となることだろう。

 


RELEASE INFORMATION

リリース日:2023年1月25日
価格:4,180円(税込) ※3タイトル共通
『NAOKO THANKSGIVING PARTY』(2枚組)のみ5,940円(税込)

 

河合奈保子 『LIVE(+5)(タワーレコード限定)』 Tower to the People/コロムビア(2023)

​品番:TWSA-1135
オリジナルリリース:1980年12月10日

1980年10月14日、東京、芝・郵便貯金ホールにて行われた河合奈保子のファーストコンサートの模様を収録したライブアルバム。カセットテープのみに収録された貴重音源(ナレーションは久米明)× 5をボーナストラックとして追加収録。

TRACKLIST
1. Overture
2. 愛の花咲くとき
3. ヤング・ボーイ
4. Generation’80(メドレー)
4-1. Generation’80
4-2. コメ・プリマ
4-3. ゴンドリエ
4-4. ヴォラーレ
4-5. パローレ・パローレ
4-6. 日曜はだめよ
4-7. チャオ・チャオ・バンビーナ
4-8. オー・シャンゼリゼ
5. 不思議なピーチパイ
6. 翼を下さい
7. ハリケーン・キッド
8. 甘いささやき
9. 大きな森の小さなお家(うち)
10. Can’t Stop The Music
11. 二人だけのデート
12. さよなら ありがとう

ボーナストラック
13. パパとふたりだけにして
14. パパお願い
15. 時は流れ・・・十二の春
16. ハッピー・ライフ ハッピー・フィーリング
17. パパとふたりだけにして

 

河合奈保子 『NAOKO IN CONCERT(+2)(タワーレコード限定)』 Tower to the People/コロムビア(2023)

品番:TWSA-1136
オリジナルリリース:1982年2月25日

1982年1月6日、日本青年館ホールにて行われた河合奈保子の新春コンサートの模様を収録したライブアルバム。カセットテープのみに収録された貴重音源 × 2をボーナストラックとして追加収録。

TRACKLIST
1. Overture(メドレー)
1-1. Overture
1-2. Think Of Me
2. Follow Me
3. そよ風の誘惑(Have You Never Been Mellow)
4. Deja vu
5. ハート悲しく(Hearts)
6. 秋桜
7. 涙色の微笑(Can’t Smile Without You)(ボーナストラック)
8. 鳥の詩
9. 愛してます
10. ラブレター
11. スマイル・フォー・ミー
12. 愛は二人の腕の中で(Elmegyek)
13. Medley(メドレー)
13-1. Can’t Stop The Music(ボーナストラック)
13-2. 恋にメリーゴーランド(In For A Penny, In For A Round)(ボーナストラック)

 

河合奈保子 『ブリリアント〈レディ奈保子 イン・コンサート〉(+2)(タワーレコード限定)』 Tower to the People/コロムビア(2023)

品番:TWSA-1137
オリジナルリリース:1982年11月21日

1982年10月17日、東京、芝・郵便貯金ホールにて行われた河合奈保子の秋のコンサートの模様を収録したライブアルバム。竹内まりや作の代表曲“けんかをやめて”では河合奈保子自身によるピアノの弾き語りが聴ける。カセットテープのみに収録された貴重音源 × 2をボーナストラックとして追加収録。

TRACKLIST
1. Ain’t no mountain high enough
2. Xanadu
3. いい日旅立ち
4. Lady NAOKO Medley(メドレー)
4-1. You keep me hangin’ on
4-2. 雨
4-3. スニーカーぶる~す
4-4. 愛をください
4-5. Dancing queen(ボーナストラック)
4-6. しあわせ芝居(ボーナストラック)
4-7. ダンスはうまく踊れない
4-8. 100%・・・Soかもね!
4-9. I hear a symphony
5. Smile again
6. けんかをやめて
7. 待つわ
8. シルエット・ロマンス
9. ヤング・ボーイ
10. 夏のヒロイン
11. Reach out I’ll be there(ボーナストラック)
12. ラブレター

 

河合奈保子 『NAOKO THANKSGIVING PARTY(タワーレコード限定)』 Tower to the People/コロムビア(2023)

品番:TWSA-1138
オリジナルリリース:1988年10月21日

1988年7月24日、よみうりランド オープンシアターEASTにて行われた河合奈保子のファイナルバースデーコンサートの模様を収録したライブアルバム。2枚組。1曲のカバーを除き、オリジナルのヒットシングル曲を中心に構成。

TRACKLIST
disc 1
1. エスカレーション
2. UNバランス
3. THROUGH THE WINDOW~月に降る雪~
4. ジェラス・トレイン
5. Harbour Light Memories
6. 大きな森の小さなお家(うち)
7. 愛は二人の腕の中で(Elmegyek)
8. けんかをやめて
9. Sky Park

disc 2
1. Medley(メドレー)
1-1. スマイル・フォー・ミー
1-2. Invitation
1-3. 涙のハリウッド
1-4. デビュー ~Fly Me To Love~
2. 悲しい人
3. 黒髪にアマリリス
4. 夢見るコーラス・ガール
5. Girls Like A Party
6. GT天国
7. ハーフムーン・セレナーデ