音楽聴取の方法が増えた現在、タワーレコードが特に勧めているのがSACDでのリスニングです。そのSACDの魅力をお伝えしている当連載が今回取り上げるのは、河合奈保子『DAYDREAM COAST』のSACDハイブリッド盤。2021年にタワーレコードが世界初SACD化した河合奈保子さんの代表作8タイトルのなかから、デヴィッド・フォスターを筆頭にTOTO/エアプレイ関連の音楽家が多数参加した米LA録音のAOR名盤を選出しました。今回は、音楽やオーディオについての執筆で知られる嶋護さん(近著は「ジャズの秘境 今まで誰も言わなかったジャズCDの聴き方がわかる本」)に、本作について綴ってもらいます。 *Mikiki編集部
デヴィッド・フォスターら西海岸の豪華な顔ぶれが揃ったアメリカ録音作
日本コロムビアが製作した河合奈保子のオリジナルスタジオアルバムは全部で19タイトルになる。13年の間に、芸映プロダクションの香川洋三郎が主導した前期から、全曲を売野雅勇/筒美京平作品で占めた2つのアルバムを経て、自作曲を歌うようになる後期へ緩やかに移行していった。そして、あたかもフェイズの変わり目を区切る読点のように、『DAYDREAM COAST』と『9 1/2 NINE HALF』(85年)という2つのアメリカ録音アルバムが存在する。
84年8月に発売された『DAYDREAM COAST』は、同年4~5月にかけてロスアンジェルスで録音された。ハリウッドの作家に曲を書かせ、演奏は現地のスタジオミュージシャン、録音からミックスダウンまで現地で行うというプロジェクトには、実は前例があった。芸映の先輩にあたる岩崎宏美が同年初頭に録音したアルバム『I WON’T BREAK YOUR HEART』(ビクター)がそれで、両者はスタッフやミュージシャンもよく似ている。
『DAYDREAM COAST』の録音セッションに集められたミュージシャンは、ジェフ・ポーカロ、マイク・ポーカロ、マイケル・ランドウ、デヴィッド・フォスター、ピーター・セテラ、ビル・チャンプリン、チャック・フィンドレー、ラルフ・ジョンソン、ジョン・ロビンソン、ポール・ジャクソンJr.など、西海岸の豪華な顔ぶれがずらりと揃っていた。曲は主にエリック・ブリングがトニー・ヘインズ、ラルフ・ジョンソン、アル・マッケイらと書き、その上で英語詞を売野雅勇と竜真知子が日本語へ訳すという体裁がとられた。
音録りの場となったライトハウス・レコーダーズは、それまでにも大橋純子や笠井紀美子、前述の岩崎宏美も使ったスタジオだった。『DAYDREAM COAST』はスタッフをロスの現地人で固めていたが、河合奈保子の歌入れだけは、内沼映二ら日本人が手がけた(内沼は今回のSACDマスタリングも監修している)。仕上がった24トラックマスターはビーチ・ボーイズの録音で知られるサンセット・スタジオに持ち込まれ、そこでデヴィッド・フォスターとのコンビで知られるフンベルト・ガティカが最終ミックスダウンを行った。