このアルバムがみんなのいちばん好きな場所になれますように――ポップ・パンクからブリティッシュ・ビートまで〈らしさ〉の詰まった新作は現時点での最高傑作だ!

 コロナ禍の真っ只中だった2020年7月12日、少年ナイフは〈止まない雨はない〉という思いを込め、ギター・ポップ調の新曲“Better”を配信リリースした。彼女たちもライヴ活動の休止を余儀なくされていたわけだから、悔しい、あるいは歯痒い思いをしていたに違いない。そう思いながら、なおこさんに振り返ってもらったところ――。

 「毎年7月12日に〈ナイフの日〉と銘打ってやっている恒例のライヴも2020年はできなかったので、みんなにちょっとでも楽しんでもらえたらと思って、“Better”を発表しました。バンドの活動が何もないときは近所をサイクリングしたり、散歩したり。それまで1年の3分の1以上、ツアーしていたので、逆にゆっくりできてよかったです。以前も半年くらいライヴをしなかったことがあったから、その延長みたいな。40年やってると、そんなものですよ」(なおこ、ヴォーカル/ギター:以下同)。

 実に〈らしい〉答えが返ってきて嬉しくなってしまった。ニルヴァーナほか多くのバンドを魅了しながら、世界各地をツアーしてきた40年のキャリアは伊達じゃない。相変わらずのマイペースは頼もしい限り。そんな少年ナイフが3年8か月ぶりにアルバムをリリース。それが“Better”他の全10曲を含む『OUR BEST PLACE』だ。

少年ナイフ 『OUR BEST PLACE』 Pヴァイン(2023)

 「いつも通り、とにかくポップで楽しい、だけど、ロックな作品にしたいと思ってました。ここ数作はハード・ロックめの曲が多かったけど、今作は初期のテイストもあるし、ポップ・パンクもあるし、本来の少年ナイフらしい作品になったかな。レコーディングは2回。その間に、アレンジを詰めたり、時間を掛けてフレーズを考えたりできたので、満足のいく作品になりました」。

 歌詞がある意味トピカルかつシニカルなポップ・パンクの“MUJINTO Rock”、ちょっと変な曲を1曲ぐらい作りたいと考え、バウムクーヘンの木に住みたいという夢を日本語で歌ったインディー・ロック調の“バウムクーヘンの話”が原点回帰を思わせつつ、その実、『OUR BEST PLACE』にはそれだけにとどまらない多彩な曲が収録されている。

 「“Nice Day”はマージー・ビート、“Vamos Taquitos”はマリアッチみたいにしたかったのに、なんかクイーンみたいになってしまった。どこがやねんと言われそうですけど。メキシコ料理が好きなあつこさん(ベース/ヴォーカル)に歌ってもらいました。スパイスカレーを作ることにハマっていたときに作った“Spicy Veggie Curry”のメロディーはバズコックスっぽい。2016年のUKツアーの最終日に楽しんだアフターヌーン・ティーのことを歌った“Afternoon Tea”は、それならイギリス風やろと思ってキンクスとかそんな感じに。スイーツ好きのりさちゃん(ドラムス/ヴォーカル)が歌ってます。最後の“Just A Smile”は大好きなパイロットのカヴァー」。

 少年ナイフらしさのなかにルーツと言えるバンドへのオマージュが滲んだ収録曲を説明するなおこさんも楽しそうだ。2003年にオムニバス『Girls L.T.D. – Girls Like To Dance』に提供したガールズ・バンドのアンセム“Girl’s Rock”の再録ヴァージョンに加え、“MUJINTO Rock”や“Ocean Sunfish”で閃かせるツイン・ギターのソロも聴き逃せない。

 「ギターのハモリが大好きなんです。ジューダス・プリーストのグレン・ティプトンとKK・ダウニングをイメージしました」。

 ちなみにCDには本編の10曲に加え、“Nice Day”の60’s Mix、“バウムクーヘンの話”と“Girl’s Rock”の英語ヴァージョンをボーナス・トラックとして収録。

 「ボートラはサブスクには入りません。それもCDのセールス・ポイント(笑)。この頃、誰もがヴァイナルって言うけど、この先またCDに戻るという意見も聞きます。サイズも便利だし、ジャケットも付くし」。

 アルバム・タイトルには、これが現在の少年ナイフにとっていちばん居心地の良いサウンドという思いが込められているそうだ。つまり、最高傑作ということだろう。

 「今作を聴いて、みんなもいちばん好きな場所にいるような気分になってほしい。OURがYOURになったらいいですね」。

左から、2016年作『アドベンチャーでぶっとばせ!』、2018年のライヴ盤『アライヴ! 異次元への飛翔』、2019年作『スウィート・キャンディ・パワー』(すべてPヴァイン)

パイロットの74年作『From The Album Of The Same Name』(Parlophone)