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35周年を迎えた少年ナイフの〈アドベンチャー〉を追跡!
いつ聴いてもハッピー
「正直、35年経っていたことも気づいてなかったぐらい(笑)」(なおこ、ヴォーカル/ギター)。
少年ナイフが今年、結成35周年を迎えたことについて尋ねると、なおこは返答にちょっと困りながら笑った。
「いろいろ助けてくれる人と少年ナイフを支持してくれるお客さんが見守ってくれたおかげです。ライヴでお客さんが楽しんでいる顔を見たら、それが私たちのエネルギーになる。それで続けてこられたんです」(なおこ)。
決して謙遜ではなく、それが正直な気持ちなのだと思うから、筆者が言っておきたい。メンバーが変わっているとは言え、女性だけで35年も活動を続けてきたロック・バンドが世界中にどれだけいる!? しかも2年ぶりのニュー・アルバム『アドベンチャーでぶっとばせ!』は、少年ナイフが36年目にしてまた新たな局面を迎えたことを印象づけるものになっているんだから、快哉を叫ばずにいられないではないか。
「新しいラインナップになったことでまたフレッシュになったと思います。りさちゃんにはりさちゃんのスタイルがある。それがあつこと私の演奏に混じりあって、新しい音になっている。レコーディングはワクワクしながらできました」(なおこ)。
昨年7月に20歳のりさ(ドラムス/ヴォーカル)が加入。そして、同年4月より産休のりつこに代わってUSツアーに参加したオリジナル・メンバーのあつこ(ベース/ヴォーカル)も、ほぼ10年ぶりに正式メンバーとして戻ってきた。
「私はアメリカに住んでるんで、復帰って話になるとは思ってなかったから嬉しかったです」と、ネットを通じてインタヴューに参加したLA在住のあつこ。
「ネットもあるから、昔よりも不便なことは少なくなりましたね。それに、りさちゃんはもともと大分でお父さんと妹さんとバンドをやってたんですけど、大阪に通うという形で参加してもらえないかって声をかけたら、大阪に引っ越してきてくれて」(なおこ)。
少年ナイフの曲をコピーしながらドラムを覚えたというりさは、少年ナイフの魅力をこんなふうに語る。
「シンプルでわかりやすいし、楽しいし、いつ聴いてもハッピー。女の人だけで楽しそうに演奏しているのもカッコイイ。それにずっと変わらないじゃないですか。突然セクシー路線になったり……」(りさ)。
「無理無理(笑)」(あつこ)。
「……アイドル路線になったりしない。ずっとロックなところがいい。誘われた時は喜びとワクワクしかなかった」(りさ)。
みんな歌えて理想の形
そんな新体制で制作された今作では、なおこがこれまで以上にライムを意識しながら3か月かけて作った新曲を、いつもより入念にリハーサルしてからレコーディングに臨んだという。前作『嵐のオーバードライブ』では、〈ポップ・パンク・バンド〉と括られるのが多いことに対し、それだけじゃないという思いを込めて、ハード・ロックを含む70年代のロック的なアプローチを深めたが、今回はその延長上でありつつ、「レヴェルアップした」(なおこ)と言う通り、ブリティッシュ・ビート、フォーク・ロック、サイケなどの要素も交え、さらに多彩なものに。しかし、それがリスナーを圧倒するようなものではなく、どこかリラックスしたポップな作風になっているのが彼女たちらしい。もちろん新境地もアピール。
「あつこのノリは後ろノリと言うか黒人的と言うか、日本人には珍しいタイプのリズム感の持ち主なので、全体的にグルーヴィーなベースを弾いてるんですけど、特に“Wasabi”は彼女が歌っていることもあって、そういう魅力がより出ました。りさちゃんが歌っている“Green Tangerine (Kabosu)”は声が純粋な感じで、可愛らしい楽しい曲になりましたね」(なおこ)。
キッスのツイン・ヴォーカルにインスパイアされ、なおことあつこが2人で歌った“Tasmanian Devil”は、まるでハード・ロックと60年代のガールズ・グループ、シャングリラスが出会ったような楽曲だ。
「そういう音楽も好き。フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズが大好きで、『ジャージー・ボーイズ』は何回も見ました。他にもデス・メタルも好きだし、SHINGO★西成をはじめ日本語ラップも、クラシックも聴きます。だから次はどうなるかわからない。ラップになるかもしれないし、パンク・ポップに戻るかもしれないし(笑)」(なおこ)。
そう言われてみれば“Cotton Candy Clouds”の跳ねるようなヴォーカルは、ラップの影響かもしれない。しかし一番影響を受けたのはビートルズとのこと。
「全員が歌えてハモれて演奏もできるバンドが理想。いまはみんなが歌えるから理想の形になってると思います」(なおこ)。
今後は4月にイギリスとアイルランド、6~7月に日本と、精力的にツアー及びライヴ活動に邁進する。あつこが参加できないライヴは、育児中のりつこや、サポートから正式メンバーとなったなる(ベース)が演奏するという。結婚、出産、育児という理由でバンドを離れても、戻ってこられる場所があるところは、〈女性がロックするバンド〉にこだわって活動してきた少年ナイフならではかもしれない。これまで多くのガールズ・バンドに影響を与えてきた少年ナイフは、そういう意味で今後も、ロールモデルになっていきそうだ。
「女性だけでやるほうが話も感覚も合う。着替えもホテルも一部屋でいいし、すべてが便利(笑)。みんなで助け合って、バンドを楽しいものに盛り上げたいと思ってやってます」(なおこ)。
少年ナイフとマインドを共有する世界のガールズ・バンドたち
『fun! fun! fun!』(2007年)のリリース時に「高校時代、聴きまくってました」とコメントを寄せたチャットモンチーをはじめ、ドナスや住所不定無職など、少年ナイフから影響を受けたと語るガールズ・バンドは国内外問わず少なくない。男勝りというわけでも、殊更に色気をアピールするわけでもなく、〈女の子たちが等身大でロックを演奏するその姿がカッコイイ〉という少年ナイフがやり続けてきたことは、世代を超えて多くのガールズ・バンドに受け継がれている。
〈FUN〉を追求する姿勢に加え、ローファイなポップ・パンクという音楽面でもナイフを連想させるのが、いま世界中が注目しているスペインのハインズ。そのハインズと縁があるLAのバーガーはガレージ・ポップの宝庫だが、ナイフと同じく姉妹によるサマー・ツインズや、アクアドールズなど女子アクトも多い。また、かつて少年ナイフの楽曲を起用したUSのTVアニメ「パワーパフガールズ」の新テーマ・ソングを歌うシアトルのポップ・パンクな4人組、タコキャットも要注目。彼女たちが所属するサブ・ポップ傘下のハードリー・アートでは、4人組のラ・ルースもオススメだ。 *山口智男