〈NO MUSIC, NO LIFE. @〉にも選出されたラッパー、PEAVISの新作EP『Blooms』が届いた。福岡を拠点に活動するPEAVISは、今作にも参加しているRio WoodruffとFogも擁するコレクティブのYelladigosの一員でもあり、DJ/シンガーソングライターのYonYonが立ち上げたレーベルのPeace Tree所属アーティストとしても知られている。昨年には同じく福岡で活動するビートメイカー、NARISKとのタッグ作『MELODIC HEAVEN』をリリース。ドレイクやビヨンセに先駆けたハウス風味の“Continue!”や、Helsinki Lambda Clubの橋本薫の歌声をフィーチャーしたエモラップ路線の“Live Long”など多くの良曲を生み出した。
歌心と程良い脱力感のあるフロウで攻めるPEAVISのラップは、一聴して柔らかな印象を残す。しかしリリックは一人称の力強いものであったり、ゆるさの中に複雑なフロウを忍ばせたりもしている。ポップな〈ラップ寄りの歌〉ではなく、やはりあくまでも〈ラッパー〉なのだ。この逸脱しすぎないバランス感覚が、ラッパーとしてのPEAVISの魅力の一つだ。
“Continue!”以外は全てビート的にはヒップホップ文脈のもので固められていた『MELODIC HEAVEN』に対し、今作でのビート選びは越境的なものも目立つ。YonYonのバースも素晴らしい“Colorful”と“Dear Lady”はレゲトンだし、“シアワセ”ではハイパーポップのような強烈な低音が割り込んでくる。レイジ路線の“Drive in Future”はストレートにヒップホップのトレンドに乗ったようでいて、プロデュースにはTREKKIE TRAXのCarpainterとandrewというヒップホップ外の人脈を起用。フューチャーベースのサンプルパックで制作されたトリッピー・レッドの名曲“Miss The Rage”(2021年)が流行の起点となったレイジを、フューチャーベースで名を馳せたTREKKIE TRAX勢と共に制作するという着眼点は見事だ。〈未来〉という題材も、フューチャーベースの〈フューチャー〉の部分を暗示しているようにも聞こえる。
しかし、ヒップホップ以外の要素をふんだんに取り入れつつも、EPとして聴くと不思議とヒップホップとしてまとまっているのが今作のユニークな点だ。クロスオーバー志向のスタイルだけではなく、starRo制作のラテンフレイバーが効いた“Torch”や、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインあたりとの同時代性を感じさせる哀愁漂う“Life”のようなヒップホップ色が強い曲もきちんと収録されている。先述した“シアワセ”にしても、ストレートなハイパーポップではなくエモラップの変形のような印象だ。この他ジャンルに接近しつつも寄せすぎないセンスは、PEAVISのラップの魅力である〈逸脱しすぎないバランス感覚〉とも繋がるものである。幅広いリスナーにリーチし得る親しみやすさとヒップホップの魅力を両立した今作は、曲単位ではあらゆるプレイリストにフィットしながらも一枚としての総合力も備えた快作だ。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2023年3月15日
配信リンク:https://809.lnk.to/peavis_blooms
TRACKLIST
1. Torch (Prod. starRo)
2. Colorful feat. YonYon (Prod. Xansei)
3. Drive in Future feat. Rio Woodruff (Prod. andrew & Carpainter from TREKKIE TRAX)
4. Life (Prod. TIGAONE)
5. Dear Lady (Prod. Fog)
6. シアワセ (Prod. Xansei)
PROFILE: PEAVIS
神戸出身、福岡を拠点に活動するラッパー。10代の頃から音楽活動を始め、2015年にYelladigosを結成。グループでの活動を経て、2018年にソロ活動を開始。以後、孫GONGや田我流、鎮座DOPENESSらのヒップホップ勢に留まらず、YonYonやkiki vivi lily、黒田卓也、Shin Sakiuraなどとのジャンルを超えたさまざまなコラボレーションを行い大きなプロップスを得る。セカンドアルバム『PORTRA¥AL』に収録された楽曲“ガラスの地球”では手塚治虫のエッセイ集「ガラスの地球を救え」からインスパイアを受け制作、そしてリリースを機に手塚るみ子との対談や手塚治虫記念館でのMV撮影が実現するなど、その活動は多岐にわたる。どんなビートも乗りこなすラップスキルとエモーショナルかつその場を明るくする音楽性、独特なタトゥーやファッションにも注目が集まる。〈Peace & Unity〉を掲げ、この時代に必要なメッセージを伝え続けている。