「チルでオーガニックで等身大」――ビートメイカーのNARISKは同郷の盟友であるラッパー、PEAVISとのジョイントアルバムをそう表現した。聴き馴染みのよいメロディーと小気味よいビートが貫かれた『MELODIC HEAVEN』を的確に言い表している一言である。
PEAVISを始め、Rin音、Skaai、kiki vivi lily、LOX BLACK BACK & 16、橋本薫(Helsinki Lambda Club)、BASHI THE BRIDGE(Yelladigos)と、福岡を中心に九州エリア出身のアーティストによるキャラクター豊かなボーカルとラップが乗る『MELODIC HEAVEN』は、リスナーの耳に幸福な時間をもたらしてくれる。
しかし、ただ聴き心地がよいだけではない。その歌詞の中には、それぞれの環境の中で自分らしく生きるためのTIPSが丁寧かつ緻密に織り込まれている。
「福岡とLAは似ているかもしれない。海と街があってゆったりと時間が流れている」とPEAVISは言う。さらにLAビートに影響を受けたNARISKが「お互いに無理なく制作できた」と振り返る。『MELODIC HEAVEN』は、今の福岡で鳴っている音を万華鏡のように色鮮やかに映し出した作品だ。
リアルかつ自然体で、生まれ育った街と成熟するシーンに接続する2人から見た福岡の印象と、2人が描く音の楽園『MELODIC HEAVEN』とは。アート/音楽が密接に交わる福岡という、言わばカルチャーのビオトープで育まれた、ふくよかな音楽性を内包する『MELODIC HEAVEN』と福岡のシーンについて、PEAVIS & NARISKに話を聞いた。
親不孝通りのクラブ、BASEで2人は出会った
――PEAVISさんとNARISKさんは10代の頃からお付き合いがあるとのことですが、出会った場所や、その頃のお互いの印象はいかがでしたか?
PEAVIS「天神の親不孝通りにCLUB BASEというクラブがあって、そこに若い頃から入り浸ってたんですけど、NARISKともそこで出会いました。最初、彼はビートメイカーではなく、DJとして活動していました。年も同じだし、イイやつだと思っていました。NARISKは俺のことをどう思ってた?」
NARISK「(出会ったのは)まだお互い18か19歳くらいの頃だったんですけど、PEAVISはもうその頃には音源をリリースしていたし、ライブも精力的に行なっていたので、しっかりしたアーティストとして彼を見てました」
PEAVIS「その頃は俺の方が目立ってたね(笑)」
NARISK「一度出会ってからは街で会ったときに乾杯するみたいな」
PEAVIS「普通に仲良かったね」
――そんな2人の繋がりが強まったきっかけはありますか?
NARISK「PEAVISとの初共演となった“Carrying You”(2020年)からですね」
PEAVIS「YonYonをフィーチャーした“Carrying You”の時点でそうだったんですけど、NARISKのビートは一発で情景が浮かんでくる。どんな歌詞を書くのがいいのかがわかりやすいんです。今回のアルバム『MELODIC HEAVEN』でも俺がリリックのテーマは決めているんだけど、ビートに導かれてそれが出てきました。NARISKは制作においては言葉足らずの面があるんだけど、それをビートで補ってくれる」
NARISK「〈こういうビートで、彼がこういうふうに歌ったらおもしろいんじゃないかな〉という構想は常にあって、それをビートの中に落とし込むという感じですね」
LAで育まれたNARISKのビートセンス
――NARISKさんは2015年から1年間、LAに滞在されていたこともあるそうですが、どういった経緯でLAに渡ったんですか?
NARISK「そもそも音楽に興味を持ったのがR&Bとかヒップホップだったんですけど、調べてみると自分が好きなものにはLAの音楽が多いということに気づいたんです」
PEAVIS「ストーンズ・スロウとか、ビート系のサウンドだよね」
――ブレインフィーダーとか?
NARISK「そうです。〈Low End Theory〉(ストーンズ・スロウやブレインフィーダーのアーティストが多く出演していたイベント)のライブ映像などを観て、彼らのビートだけで人に聴かせる姿勢にグッときたのが、自分の初期衝動です」
――ビートメイクを探求していくうえで、お手本にした人はいますか?
PEAVIS「NARISKにとってはOlive Oilさんが師匠みたいなところがあるんです」
NARISK「右も左もわからずに作っていたビート集のCDをOILWORKSのイベントでOlive Oilさんに渡したら、〈イベントに出てみないか〉って言われて。それ以降、ビートライブをさせてもらってました」
PEAVIS「Oliveさん経由でKOJOEさんの耳にもNARISKのビートが届いて、KOJOEさんの2018年のアルバム(『2nd Childhood』)ではNARISKが収録曲の半分でビートを提供したんですよ。OliveさんとKOJOEさんを経て、全国のラッパーたちにNARISKのビートが広がっていった。それ以前は、NARISKのビートはアブストラクトで、ラップを乗せるようなビートじゃなかったんです」
NARISK「最初はアンダーグラウンド志向というか、ビートだけでどれだけ聴かせるかを追求していましたからね」
PEAVIS「NARISKはKOJOEさんと出会ってからはラップが乗ることを意識した、楽曲向きのビートを作るようになった。それを経たうえでお互いのイイ感じのタイミングで“Carrying You”を作れたんです」