80~90年代のゲーム音楽を思わせるシンセサイザーの派手な音色、エモーショナルなメロディー、割れ気味のトラップ・ビートとサブ・ベース、歪んだ音像……。そんなサウンドを特徴とするヒップホップのニュー・スタイル〈レイジ〉が注目されている。

レイジ・ビートのプレイリストや解説動画は数多く、タイプ・ビート・シーンでも流行中だ。flawboyがプロデューサーの視点から分析したFNMNLの特集記事が広く読まれるなど、ここ日本でも話題になっている。しかし、この過激で過剰なサウンドは、いったいどこから来たのだろうか?

そこでこの記事では、ブログ〈にんじゃりGang Bang〉で知られる書き手のアボかどが、3人の重要なプロデューサーに注目しながらレイジのルーツを分析した。 *Mikiki編集部


 

新たなヒップホップ・スタイル〈レイジ〉とは?

新たなヒップホップのスタイル、〈レイジ〉が注目を集めている。人気ラッパーのトリッピー・レッド(Trippie Redd)がリリースしたシングル“Miss The Rage”(2021年)のヒットを機に急速に盛り上がったこのスタイルは、ゲーム音楽やトランスを思わせるサイバーな音色のシンセを前面に押し出したトラップを指す。

トリッピー・レッドの2021年作『Trip At Knight』収録曲“Miss The Rage”。プロデュースはローソー(Loesoe)

トリッピー・レッドのニュー・アルバム『Trip At Knight』は(ほぼ)全曲がレイジ・ビートで占められており、このスタイルの火付け役としての気合を感じさせる作品に仕上がっていた。“Miss The Rage”に参加していたプレイボーイ・カーティを筆頭に、ジュース・ワールドやXXXテンタシオンなど豪華なゲストを迎えた同作は大きな話題を呼び、レイジのさらなる浸透を手助けした。

“Miss The Rage”から生まれたように見えるレイジだが、それらしきビートは以前から散見されていた。Spotifyにあるレイジの楽曲を集めたプレイリスト〈RAGE BEATS🔥🔥🔥〉にも、“Miss The Rage”以前に発表された楽曲が多く収録されている。“Miss The Rage”は確かに象徴的な楽曲ではあるが、このスタイルの元祖とは言えないのではないだろうか。

Spotifyプレイリスト〈RAGE BEATS🔥🔥🔥〉

このスタイルに比較的早く挑んでいたのが、トラヴィス・スコット率いるカクタス・ジャックと契約を結んだソーフェイゴ(SoFaygo)だ。“Miss The Rage”のリリースより早い2020年に典型的なレイジ・ビートを採用した“Off The Map”を発表していたこのアトランタのラッパーは、『Trip At Knight』収録の“MP5”や今年リリースされたリル・ヨッティによるレイジ曲“Solid”にも招かれている。

ソーフェイゴの2020年作『After Me』収録曲“Off The Map”。プロデュースはトレントン・カイル(Trenton Kyle)

ソーフェイゴはComplexによるインタビューで、影響を受けたアーティストとしてリル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)とプレイボーイ・カーティ(Playboi Carti)の名前を挙げている。また、この二人は『Trip At Knight』の先行シングルとなった“Miss The Rage”と“Holy Smoke”にも参加している。そしてこの二人は、典型的なレイジ・ビートとまでは行かなくても、レイジに繋がるビートを多く採用してきた。レイジの形成には二人が大きな影響を与えていると推測できる。

そこで今回は、この二人とその関係者たちが影響を受けたアーティストや、ヒップホップ史におけるレイジで使われるような音色のシンセの使用例を振り返り、レイジのルーツを探っていく。