渡辺昇、荻野潤平、中島雄士(グソクムズ/路地)、山田眞二郎、宇野究人の5人から構成される東京発のバンドThe Lamb。2019年より本格的な活動をスタートさせて以降、海外の音楽ブログやYouTubeのリアクション動画などで次第に火がつき、イギリスや中国のレーベルから音源をリリースするなど、海を越えた活躍を見せている。
そんなThe Lambが2023年6月28日(水)にリリースする新作EP『The Equinox』は、“Plastic Girl”(2020年)に象徴されるシティポップと評されたこれまでの音楽性を捨て、自身たちの本来のルーツであるブルースや60年代後半から70年代のハードロック路線に大きく舵を切った意欲作だ。
このインタビューでは、これまでの歩みやバンドの在り方、彼らが持つ特異性、そして新作EPを、ボーカル/ギターの渡辺氏と前作『The Lamb』(2023年)に続きエンジニアとして参加した Bisshi氏(ex-Paellas)によるクロストーク形式を取りながら紐解いていく。
自主イベント、YouTubeでの発信、レーベル倒産
――まずはThe Lambのこれまでの活動を教えていただけますか? とある一件が話題になるなど、紆余曲折があったんですよね。
渡辺昇「僕が社会人として暮らしていた27歳くらいの時に、突然また音楽をやりたいという気持ちが芽生えたことがThe Lambのスタートでした。当時はドラムの中島と旧メンバーのベーシストと誰に聴かせるわけでもなくデモを作る遊びを続けていたんです。
ただある日〈何か大きいことをやりたいね〉という話になって。僕らがトリを務めるバンドのオーディションライブを代々木公園で勝手に主催したんです(笑)。そのイベントで一旦バンド活動に区切りがついて、解散や休止をすると明言することもなく静かになる時期がありました」
――それが2017年ごろですね。
渡辺「はい。それから約2年後にいまベースを担当している荻野が加入したこともあって再始動したんですけど、知らないうちにドラムの中島が少し名の知れたYouTuberになってて(笑)。その時期から本格的なレコーディングをしたりMVを作ったり、YouTubeでラジオごっこみたいなものを始めたんです」
――完全に自分流で好きなことを話しているポッドキャストを発信したり、そういうアウトプットの発想は中島さんからの影響なんですね。
渡辺「いや、企画そのものは僕が次々と荒唐無稽なことを言い出す感じなんですが、むしろ中島のYouTubeからバンドを知っててくださったファンの方々の応援には非常に助けていただきました。
少し経って漠然とそろそろ〈『オトナ』に誘ってもらいたい〉と思っていた時にシングルのリリースを提案してくださったレーベルがあったんですけど、その会社がなくなってしまって……」
――出鼻を挫かれたと。
渡辺「苦労してレコーディングをしたのに、直前でレーベルがなくなってしまった時、中島や荻野が辞めちゃうかなって思ったんですよ。だから何か企画をしないといけないなと思って3人で完成させたのが悪名高いオマージュソングの“Plastic Girl”でした(笑)」
“Plastic Girl”騒動の功罪、海外ファンの反響
――なるほど。そして、その“Plastic Girl”が賛否両論を呼んでしまったと。
渡辺「それまではメジャー7thコードで進行していくような曲を生演奏でやるスリーピースバンドをやっていたんですけど、流行りのプレイリストで耳にするような音楽にチャレンジしてみたんです。
ただ、それには何かしら雛形が必要で。例えばシンセの音選びやスネアのゲートリバーブの掛け方が一つ取っても、僕らは一つひとつ学習する必要があったので、The 1975をロールモデルや参考にしたんですよね。〈売れ線を目指す〉みたいな野心というよりは、〈どうして僕らはこういう現代的な音が出せないんだろう〉〈いっそのことMVを含めてオマージュに振り切ってみたら面白いかも〉くらいの気持ちでした」
Bisshi「自由気ままに制作してきた中でその延長くらいに考えてた曲ってことだよね。でも“Plastic Girl”の騒動は、実際は結構大変だったの?」
渡辺「うん。旅行してたら友達から電話が掛かってきて〈お前、すごいことになってんな〉って言われて騒動を知ったんですけど。はじめは海外のあるYouTuberが曲を紹介してくれたことでじわじわ好評だったんですが、1か月くらい経った頃から騒ぎになっていて。当時の僕らはレーベルに所属している訳でもなかったし、曲自体も〈50〜100回くらい再生されればいいかな〉と思ってたくらいだったから、あの騒動には正直面食らったね。
誹謗中傷もあって、それ以来SNSをますます見なくなったけど、ただ一方で高評価をくれる海外のリスナーも多くいたんですよね。シティポップのファンの人がリアクション動画を発信してくれたり色々なDJの方がプレイリストに入れてくれたり」
――あの騒動は悪いことだけじゃなかった、ということですよね。
渡辺「そうですね。2021年にはイギリスの〈The Animal Farm〉、上海の〈Luuv Label〉というレーベルから声をかけてもらってシングルをリリースさせてもらいました」
――騒動のことはありますけど、YouTubeやプレイリストというプラットフォームから話題になっていく点は、ある種現代における典型的な売れ方だったんですね。日本国内より海外からのリアクションの方が多かったんでしょうか?
渡辺「コロナ禍前にライブをしていた時は当然日本の方々が遊びにきてくれていましたけど、それ以降は海外の方からの反応ばかりでしたね。〈なんで僕らは国内でこんなに見向きもされないんだ〉っていうジレンマはありました(笑)」
――なるほど。そして今年2月にアルバム『The Lamb』をearly Reflection(ポニーキャニオンの音楽配信サービス)でリリースしたのがThe Lambの現在地ということですよね。
渡辺「ようやく安心して作品を作れる環境になったのがいま、という感じですね(笑)。ありがたい!」