幻のセカンド・アルバム『The Science』がよもやの正規リリース実現! 粋を極めた90年代NY産ヒップホップならではの妙技を味わいな!

 告知されて名前だけは広まっていたり、リリース直前に何らかの事情でお蔵入りしたような〈幻のアルバム〉というものはどのジャンルにおいても存在すると思うが、90年代のヒップホップにおいてはこれが最高峰と言っていいだろう。NYの伝説的なグループ、メイン・ソースが93年頃に出すはずだったセカンド・アルバム『The Science』。結果的にお蔵入りとなって一時はブートで断片だけが出回ったような状況もあったなか、およそ30年の時を超えてついに正規リリースとなったのである!

MAIN SOURCE 『The Science』 Pヴァイン(2023)

 K・カット(DJ)とサー・スクラッチ(DJ)の兄弟にラージ・プロフェッサー(MC)を加えて89年に結成されたメイン・ソースは、91年にワイルド・ピッチから名盤の誉れ高いファースト・アルバム『Breaking Atoms』でデビュー。トラックメイクとラップの両面で核だったのは73年生まれのラージ・プロフェッサーで、彼は80年代末からエリックB & ラキムらのトラックに関わっていた若き期待株。そんな男のメイン・プロジェクトという意味でも早耳な層には注目されたはずだが、その『Breaking Atoms』が後年になって評価をさらに高めたのは、収録曲の“Live At The Barbeque”に無名時代のナズを抜擢していたことも要因だった(ラージ教授はその後ナズの『Illmatic』を手掛けて名声を不動のものにしている)。

 以降のメイン・ソースは92年にコンピ『White Men Can't Rap』に“Fakin' The Funk”を提供し、『The Science』のリリースへ向けて動いていくも、その最中にラージ教授がソロ転向のため脱退。グループには新MCのマイキーDが加入したことで宙に浮いた『The Science』はお蔵入りしてしまった。なお、その後のワイルド・ピッチは経営悪化を経て倒産。94年に出る予定だった新生メイン・ソースの『Fuck What You Think』も98年まで世に出ず、ゲフィンに買い上げられて96年に出る予定だった教授の初ソロ作『The LP』は2009年になって正規リリース……と、どうもキャリアの腰を折られがちな人たちではある。

 ともかく、今回の『The Science』には先述の“Fakin' The Funk”や“How My Man Went Down In The Game”といった既出曲はもちろん、一部で流出していた“Time”や“Hellavision”などの楽曲が初めてアルバムの並びで開陳され、要所にインタールードも収録。さらにはESGネタを用いた“Fakin' The Funk”の完全未発表ヴァージョンまで追加されていて、これは好事家にはたまらないお宝となりそうだ。

 まあ前提ゼロから聴きはじめる人に大推薦するようなものではないし、大袈裟に持ち上げるのも野暮だけど、それでも待ってて良かった!という気にさせられる驚異の発掘には違いない。最高。

左から、メイン・ソースの91年作『Breaking Atoms』、98年作『Fuck What You Think』(共にWild Pitch)、ラージ・プロフェッサーの2009年作『The LP』(Paul Sea Productions)