素朴だけど想像ふくらむ木彫りの動物たち

 まるで絵本から飛び出してきたような色鮮やかな動物たち。その派手な模様とは裏腹にどこかとぼけたような表情をした動物たちは、見る者に不思議な安らぎを与える。

 「オアハカン・ウッド・カーヴィング」と呼ばれるこの木彫りの工芸品は、1940~50年代にメキシコ南部のオアハカ州で生まれたそうだ。ひとりの職人が観光客向けの土産物として作り始めたのがきっかけだという。以来、職人の数は徐々に増えメキシコを代表する工芸品のひとつになった。

岩本慎史, 安彦幸枝 『オアハカの動物たち』 大福書林(2023)

 本書では1960~80年代に作られたものを中心に、130点の作品がオールカラーで紹介されている。初期の作品は現行品と違って表面の削りが粗く、手足や尻尾を釘で打ち付けているのが一目でわかる。また、当時は安価な塗料を使っていたため経年によって褪色しているものもある。文字通り粗削りな作りではあるけれど、その佇まいは工芸品というよりも民芸玩具の趣があり素朴な味わいに親しみが持てる。

 とりわけ野外で撮影された写真は、自然の風景と相まって動物たちの魅力が存分に引き出されている。岩場で日向ぼっこをする七面鳥の親子、木の枝に留まってまん丸な目でこちらを見つめる2羽のフクロウ……耳をすませば彼らの息遣いや会話が今にも聞こえてきそうだ。そんなオアハカの木彫り動物に魅せられた染色家・柚木沙弥郎は、本書の中でその魅力を屈託のない言葉で伝えている。

 「とにかく情熱が溢れてるね。牛だか犬だかわからないけど、『いきもの』って感じがするね。」

 生きている動物を見た時に、表情を持たないはずの彼らに表情を感じ取ることがある。本書の写真を眺めていると、木彫りの動物にも同じような感覚を覚える。そうなるとオアハカの動物たちは、もはや土産品や玩具などではなく「いきもの」として私たちの目に映るだろう。