ホタ、ボレロ、ハバネラといった踊り、カンティガス、フラメンコ、カタルーニャ民謡といった歌……。これは、〈野生と聖性が共存〉し、独特の〈翳〉と〈粋〉をもったスペイン音楽に魅せられ、かの地に飛び込んだピアニストによる636ページに及ぶ〈スペイン音楽事典〉である。著者はスペイン音楽を育んだのは変化に富んだ気候風土、複雑な歴史と読み解き、〈序章〉でその概説を述べたあと〈地理と歴史〉から語り始める。実際、その後に紹介される作品の数々は〈地理と歴史〉に密接に結びついているから説得力は絶大。資料性は極めて高いが、専門的な固さはなく、親しみやすい語り口が一貫するのも素晴らしい。