2020年の設立以来、国内の早耳リスナーから注目を浴び、独自のポジションを築きつつあるクリエイティブレーベル/コレクティブw.a.u。レーベルを代表するシンガーのreinaは、昨年リリースしたデビューアルバム『You Were Wrong』が国内のみならず他国のR&Bチャートにもランクインするなど、大きな注目を集めた。さらに先日APPLE VINEGAR -Music Award- 2023にもノミネートされ、そのハイセンスな作風に対して高い評価の声が寄せられている。

アルバム発表後も、VivaOlaの“BOLD”への客演やvoquote“WISE”でのさらさとの共演など精力的に活動を仕掛けてきた彼女が、このたび新たなEP『A Million More』をリリース。『You Were Wrong』よりもややストリート色が薄まり、代わりにエレガンスが増した今作は、まさしくクワイエットラグジュアリーとも言うべき飾らない上質さをまとっている。

今作の全曲をプロデュースしたw.a.uの中心人物・Kota Matsukawaとともに、洗練へと向かった今作について語ってもらった。

reina 『A Million More』 w.a.u(2024)

 

R&Bオードブルを目指した前作

――昨年リリースされた『You Were Wrong』は、近年の国内R&Bに新たな波を生んだ素晴らしいデビューアルバムでした。コンセプトなど、どのように作られたのでしょうか。

reina「私が作ったのは歌やメロディの部分ですが、コンセプトめいたものは特になかったんですよ」

Kota Matsukawa「reinaと共同プロデューサーの01sailと半年間話し合った結果、R&Bオードブル的な全方位の音楽をやろうという話になったんです。そもそもreinaというアーティストが何に向いてるか分からないから、オードブル的手法をとろうって」

reina「そうそう、そんな感じだったね」

Matsukawa「そうしたら、あれもこれもできるじゃんということで、結局全部やろうってなった。あと、たくさん作れるようになったというのもあるよね。ビートができたらreinaに渡して、作ってもらって、の繰り返しがどんどん回るようになってきた。リード曲の“How Cute”ができたのはリリースの1か月くらい前だったし」

reina「曲ごとにどんなアーティストを参考にしようとか考えたわけではなくて、今まで聴いてきた音楽がどれくらい自然にインプットされているのか、その上で自然に出てくるのはどんな音楽なのか、というのを突き詰めていった気がします。自分の手札として何が出せるのかというのを考えていきました。

でも、具体的にどんな工夫をしたかは……その時は卒論も書いていて、あまり覚えていないんですよ(笑)。論文を書きながら息抜きにメロディを考えてみたり、それで詰まってきたら息抜きに論文を書いたりして……」

――オードブルなんだけど、言葉の乗せ方や歌い方を含めて、どのビートも巧みに乗りこなしていますよね。しかも世界観が統一されていて、すごく器用に感じました。音楽はこれまで何かされていたんですか?

reina「音楽スクールに通っていたこともあったんですけど、どちらかというと音楽理論の方を学んでいたので、曲作りや歌という面では全然やってきてないです。ビートに即興でメロディを乗せる、みたいなことを始めたのがつい2年半前くらい」

Matsukawa「最初に渡したビートが“Luxury”と“my apologiesss”だったんです。ということは、あれが本当に最初の作曲?」

reina「そう。そこから一番最初にデモを渡したのが“my apologiesss”だった」

 

〈私を見て〉ではないシンガー

――Matsukawaさんはそれこそ色んなシンガーを見てこられていると思いますけど、reinaさんの才能については最初から抜きんでたものを感じていましたか?

Matsukawa「reinaとは知り合ってからは長くて、大学のブラックミュージックを演奏するバンドサークルで一緒だったんです。周りと比べて、ちょっと質感が違うと思った。

その頃サークルで巧いとされている人たちの指標って、声量が出るとか、そういう分かりやすいものだったんですよ。でも、reinaはそういうことをしなくても光るものを持っていた。日本は特にR&B像が固定化しているところがあるから、そう考えるとあまり国内にはいないタイプのシンガーだと思う」

――質感が違う、というのはなんとなく分かる気がします。reinaさんは、ご自身ではそういったルーツはどのあたりにあると思いますか?

reina「エリカ・バドゥやディアンジェロの曲でずっとダンスしていたんですよ。スクールに通っていて、しかもヒップホップダンスではなく、R&Bの音に合わせてダンスするということをやっていました。確かに、私を見て見て、というダンスではなかった(笑)。外している感をいかに出すか、みたいな」

――ダンスも、オルタナティブなテイストだったということですね。

reina「そうです」

――reinaさんは、キャラクター的にもあまり前に出る感じの方ではないですよね?

reina「そうなんですよ(苦笑)。もっと……ぱーっと出ていけたらいいんですけど。自分の安全圏の外に出ていくのがなかなか難しくて」

Matsukawa「reinaは音楽的な面では何でも器用にできるんだけど、キャラクターは器用ではないと思う」

reina「確かに、その説明はしっくりくる」

 

自分を通して他のシンガーの色を出そう

――reinaさんの作品を聴いていて卓越しているなと感じるのが、作り込むところとちょっとラフにしちゃうところの塩梅です。飾らないところがあって、そういったエフォートレスな心地よさというのが楽曲に充満している。

Matsukawa「reinaはさっき安全圏と言っていたけれど、確かに、彼女に合わせていくとインドアな感じになるんですよね。無理しないスタンスというか、頑張っている感じというのがない。ただ、(プロデューサーとして)その無理しない範囲を少しずつ広げていってはいますけど。

クレオ・ソルとかリトル・シムズとかって、ハングリー精神というよりはどちらかというと内省的なエネルギー、つまり自分の内側との相談をしながら作品を作っている感じがあるじゃないですか。reinaはそれに近い」

――なるほど。自分と向き合って内省しながら肩の力を抜いてやっていくというのは、音楽に限らず、そもそものreinaさんのキャラクターであるということですね。

reina「そうかもしれないです。でも、徐々にその範囲を広げてもらう中で、選択肢も増えてきた実感はあります。このアーティストだったらどう歌うのかな?というように、チャンネルを合わせられるようになったというか。サマー・ウォーカーだったらこのビートでどう歌うだろうとか、エニー(ENNY)だったらどのようなフロウにするかなとか、ただ借りるだけではなく、あくまでも自分を通して特定のシンガーの色を出そうという意識が強まった。それは『You Were Wrong』を作っていた時はあまりなかったですね」

 

キャラと持ち味を先鋭化

――R&Bオードブルとして作られたデビュー作と比べると、最新EP『A Million More』は四つ打ちを織りまぜながらも、ダウンテンポやトリップホップといった内省的なビートに焦点が定まってきた印象です。

Matsukawa「そうですね。前作だと、たとえば“Six Feet Under”は曲としては好きなんですけど、ライブで見ているとreinaにすごくハマっているわけでもないなと思ったんですよ。つまり、オードブルとして綺麗な五角形を目指すのであれば、もうあの一作で終わりでいいかなと思った。それよりも、reinaのキャラクターを尖らせていく方が良くて、それがEPの方向性です。

あと、reinaはインプット量がすごい。フロントマンって自分の憧れているアーティストを中心に聴く人が多いけど、reinaの場合は、なんでそれ聴いてるの? どこでディグったの?みたいな音楽を聴いていることが多い。だからプロデューサーとしても、こういう方向性でいくからこのあたりを聴いといて、みたいな指示を出す必要がない。最初から持ってるものがたくさんあるから、じゃあそれを使おう、という」

――あぁ、それは理想の形ですね。今作のビートはUK色が強くなった印象ですが、それはプロデュースから01sailが抜けてMatsukawaさんだけになったのも大きいのでしょうか。

Matsukawa「大きいと思います。01sailが今回関わらなかったのは、修論で忙しくて(笑)。

そうなると、僕の本当に好きな作りたい音楽とreinaの好きな音楽がけっこうかぶってるから、自然と定まってくるんですよね。つまり、ジャジーなサンプリングのあるアメリカ東海岸の90年代ヒップホップと、UKの現行R&B」

 

〈実家の引き出し〉の中からラップスキル

――中でも、今回苦労した曲はありますか?

reina「“A Million More”は、すぐできたサビが2種類あったんですよ。でもリード曲なのにそんなすぐ完成させていいのかなと思って、たくさんリファレンスを用意したり言い回しをブラッシュアップしていったりと、リードに見合う労働をしてみたんです。3種類目を1か月くらいかけて作って、そうすると満足いくものになった。わざと時間をかけて作ったことで、やっぱり良くなるものなんだなと思いました」

――“Dogs”ではラップも披露されています。

Matsukawa「reinaはラップも元々できるんですよ。w.a.uのバンドセットのライブでは、以前(フライング・ロータスと)ケンドリック・ラマーの“Never Catch Me”をカバーしていたこともあるんです。だからラップのスキルについても、実家の引き出しから引っ張り出してきたみたいな」

 

アーティストってこんな感受性を持つよね

――今回、ビジュアルもかなり方向転換されましたね。楽曲のムードが見事に反映されているように感じます。

Matsukawa「今作では高貴なゴージャス感を打ち出したかったんです。それは音楽にも確かに反映されていて、今までストリングスが入ってる曲はなかったけど今作は3曲も入っている」

――まさにクワイエットラグジュアリーと言っていいような、飾らない贅沢さを感じました。reinaさんはいつもキャラクターから来る雰囲気がちゃんと立っていて、そこに合う音楽が作られている印象です。

Matsukawa「アートワークが分かりやすくて、『You Were Wrong』はお金持ちの女の子が音楽好きの僕らみたいな連中に絡まれてちょっと遊びを覚えて音楽を好きになったよ、という設定(笑)。だから、写真はトリミングされてるんですけど、画角を広げるとレコードがもっとたくさん散らばってるんです。そこから今回は高貴な金髪になった」

――ストーリーができている(笑)。どんどん実際のreinaさんに近づいてきているということですね。ちなみに歌詞は全編英語詞ですが、日本語を使わないというのはポリシーですか?

reina「私は、日本語で詞を書くことが本当に難しくて。音楽スクールに通っていた時から、オリジナルの曲を作ろうという課題が出た時に、簡単なコードにメロディと歌詞をつけてみたものの、どうしてもリズムに日本語が合わなくてもどかしさを感じてしまったんです。

日本語で話す時って、自分が思っていることから言葉として表現するまでのフィルターがすごく多いなと思うんですけど、英語はそれがない。だから、リズムとフロウを大事にすることを一番に考えると、自然と英語になってしまうんですよね」

――リズム重視だとどうしてもそうなりますね。ただ、その英語詞が面白い。“Good to me”では〈Pedal to the floor〉〈I made peace with speed/When I go I won’t go slow〉とスピードを巧みに表現していたり、“Dogs”では〈憂鬱な犬(Depressive dogs)〉という言い回しを使っていたりと、ニュアンスに富んだ表現が洒落ているなと感じました。

reina「私は、アーティストってこんな感受性を持つよね、という見方で歌詞を書いている気がします」

Matsukawa「人格が分かれているというと大げさかもしれないけど、実際のreinaとアーティストのreinaって全く別だと思うんですよ。そのあたりが、たとえばラッパーとかの作り方とは真逆。というのも、reinaはいつも感情が平坦で波がないんだけど、アーティストの時はわざと波を起こしているようなところがある」

reina「そう。波なしだと、書くことがないから(笑)」

 

満足したらやめちゃうかも

――でも、けっこうなハイペースで曲作りをされているじゃないですか。表現欲求というのはどこから沸いてきているんでしょう?

reina「自分が何をどこまでできるか知りたい、という好奇心です。ビートが届いた、さて何ができるだろう?という。本を読めば読むほど書ける言葉は増えていくし、音楽を聴けば聴くほど自分自身から出てくるものは多くなるじゃないですか。そうやって吸収してきたことを、今どこまで表現として出せるのかというのが面白い。

そういう意味では、小さい頃から習い事をたくさんしてきたのが今活用できているのかもしれないです。当時はなんでこんなに色々やってるんだろうって思ったこともあったけど、今になって全部つながっているんだと実感できて嬉しくなってきました。音楽スクールとダンススクールの他にも、新体操にゴスペル、キックボクシング、絵画教室など、色々やっていたんですよ」

Matsukawa「アーティストって、皆を楽しませようとか、シーンを牽引しなければと考える人たちも多いじゃないですか。でも、reinaは自分のために表現活動をやっている気がします。だから、いつか音楽をパッとやめるかもしれないなという気もする。その儚さがreinaの魅力だとも思う」

reina「確かにそうだね。いつか満足したら、突然やめちゃうかもしれない。それまでにたくさん曲を作れるよう、楽しんでいきたいです」

 


RELEASE INFORMATION

reina 『A Million More』 w.a.u(2024)

リリース日:2024年2月21日(水)
配信リンク:https://linkco.re/HMSAGRnV

TRACKLIST
1. A Million More
2. Good to me
3. dlftm
4. Silk Sheets
5. Games feat. Lil Summer
6. Dogs

■楽曲クレジット
All song Lyrics: reina
All Song Compose: reina, Kota Matsukawa
M5 Lyrics, Compose: Lil Summer
Produce: Kota Matsukawa
Mix Engineer: Kota Matsukawa
Mastering Engineer: Kota Matsukawa
Hair & Makeup: Nene Sadamitsu
Artwork: Kale Ishigami
Label: w.a.u https://www.label-wau.com/

 


PROFILE: reina
クリエイティブレーベルw.a.uのR&Bシンガー。ダンサーとしての活動経験によって幼少期からア・トライブ・コールド・クエストやモブ・ディープ、ソウルクエリアンズなどの90年代ヒップホップ/R&Bを中心に様々なブラックミュージックから影響を受ける。力が抜けつつも独特の太さを持った歌声を有しており、時にラップもこなすような高いポテンシャルも兼ね備える、日本では稀有な本格派R&Bシンガーである。自身の音源をリリースする前からw.a.uのバンドセットですでに黒田卓也、鋭児、さらさ、VivaOla、Wez Atlasなど第一線のアーティスト達と共演を果たし、2ndシングルとしてリリースした“Do The Thing”はクラブバンガーとして国内外問わず多くのDJによってプレイされた。4thシングルの“Drafts”は各ストリーミングサービスの著名プレイリストに相次いでリストイン。2023年2月22日にリリースした1stアルバム『You Were Wrong』はiTunes R&Bチャートで1位、Apple Musicで4位、各国のR&Bチャートでも上位に入るなど、活動開始から1年未満のアーティストとしては異例の反響があった。ブラックミュージックのあらゆる文脈を内包しつつ現代的なR&Bの解釈が施された楽曲を生み出す、今まさに注目のアーティストである。
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