日常におけるさまざまな揺らぎ、寄せては返す想い、心に広がる波紋……自身の内面を切り取って生まれた『wwavess』が提示する、ありふれた生活の中の多様な価値とは?

 おかもとえみの音楽には、ささやかな日常に溶け込み、日々のつれづれを慰める力がある――改めてそう強く思わせてくれたのが、約3年ぶりのソロ作品となるEP『wwavess』だ。フル・アルバムの前作『gappy』リリースから程なくしてコロナ禍に見舞われたなか、彼女はフレンズでの活動や客演・楽曲提供の仕事と並行して、デモを書き溜めていたという。

 「この3年間、ほぼ家にいたので、とりあえず楽曲を作ってみることが多くて。以前は自分の中でのハードルが高くて、作ってもボツにすることが多かったんですけど、この期間はそのハードルをなくしたんです。今回はそこからいま入れたい楽曲を詰めたので、自分の中にあるものを切り取った印象ですね」。

おかもとえみ 『wwavess』 HiTPOP(2022)

 いわば今作は彼女自身の心象や経験のスケッチ集でもあるわけだが、その切り取り方は千差万別で、なおかつ多彩なトラックメイカーの手を借りることにより、それぞれの色味はより濃密になっている。例えば本人出演のMVも印象的な“ILY IMY”は、DJ HASEBEのファット&メロウな持ち味と彼女自身が演奏するベースのグルーヴが際立つ大人の片恋ソング。薄くオートチューンのかかった歌声が〈愛のないキス〉をする相手を想う切なさを表現する。

 「この曲みたいに何時に呼ばれても会いに行ってしまう関係って、きっと他にも同じ経験をしている子は多いと思うから、〈私が代わりに吐き出したから大丈夫だよ〉という共感のされ方をしたら嬉しいなと思って。歌詞も口語っぽく、友達と話しているようなテンション感で書きました」。

 その一方、「自分はスーパーせっかちなので、早く(気持ちを)教えて!っていう曲です(笑)」という“ANSWER”は、好き同士でも踏み込めない気持ちを晴れやかに歌い上げる、ESME MORIとのソウルフルな一曲。かと思えば、Kota Matsukawa(w.a.u)によるハウシーな“Motel”では男女の車内での駆け引きが、ESMEのトロピカルなトラックが心地良い“seaside/cafeteria”では海辺のカフェで〈あの日のキス〉の思い出に浸る女性像が描かれる。

 「“seaside/cafeteria”と“Motel”は自分の内面というより物語、自分が生活するなかで本を読んでいる瞬間を切り取った感じですね。最近、自然に興味が出てきて、自分は海とか水を見ているのが好きだなと気付いた瞬間があって。“seaside/cafeteria”はそのときに書いた曲なんです。年を取ると発見が減っていくなかで、新しいことを見つける良さ、何かを思い出すことの良さ、新しいことも古いものも〈消えない瞬間〉を大切にしたいなって、海を見ながら思って」。

 そして、Joint Beautyの「生々しさがすごい」ビートに触発されて生まれたという“生活”には、コロナ禍を経て感じた、日常という〈小さな幸せ〉への想いが息づいている。

 「コロナに罹って周りの人から助けを受けたときに、人は誰かに助けてもらわないと生きていくのは難しいと思ったのが大きくて。それまでは何となくアイスを食べたりドラマを観たりしていたけど、そういう小さなことにも幸せを感じるようになったし、人といる良さを知ったことで、自分ひとりの時間の楽しさにも気付くことができました」。

 アイスが美味しい、ドラマの続きが楽しみ、空や海がきれい――ありふれた生活の中の多様な価値を見つけるための波紋が、彼女の音楽には備わっているのかもしれない。

 「水面の揺れを1時間くらい眺めていると、自分と地球が一体化する瞬間があって……急にヤバ発言みたいになりましたけど(笑)、揺らぎというのは日常や自分の中に常にあって、その揺らぎのなかに私は生きているし、そこにみんなが呑み込まれていって形成されていくのが人生だと思うんです。そんな瞬間瞬間、恋を含めて生きていくなかでの揺らぎや波を今回は表現できたし、みんなの生活の中の揺らぎにも寄り添える作品になったと思います」。

おかもとえみの参加した近作を一部紹介。
左から、DJ HASEBEの2020年作『Wonderful tomorrow』(ユニバーサル)、fox capture planの2020年のシングル『甲州街道はもう夏なのさ/やけにSUNSHINE』(Playwright)、JUVENILEの2020年作『INTERWEAVE』(HPI)、西恵利香の2021年作『flower(s)』(para de casa)、THREE1989の2021年作『Director's Cut』(rhythm zone)、KEN THE 390の2021年作『en route』(DREAM BOY)、Osteoleucoの2022年作『いっそ死のうか、いや創ろう。』(Pal)

おかもとえみの作品。
左から、2015年作『ストライク!』(VYBE)、2019年作『gappy』(HiTPOP)、在籍するフレンズの2021年作『SOLAR』(ソニー)