現役大学生によるR&Bバンド・HALLEY(読み:ハレー)がファーストアルバム『From Dusk Till Dawn』をリリースした。韓国にルーツを持つボーカルの張太賢(てひょん)を始め、日本以外にも出自を持つ5人で構成された彼らが掲げるのは、黄色人種としての〈アジアンソウル〉。その全貌が〈黄昏から彼誰まで〉と名付けられた本作で明らかとなる。
日没から夜明けとは、無限の解釈――彼らが曲作りに勤しんだ時間であり、様々な情念を抱かせる景色であり、聖書でいう怒りを収めるタイミングでもある――を持つ〈時の幅〉。それを作詞や作曲、構成、サウンドデザインなどで果敢に表現しつつ、ほぼ無意識的に20代前半という人生の〈瞬間〉を描き出した点にも注目だ。
このみずみずしい作品について、てひょんにインタビュー。トピックは制作や音楽的なリファレンスだけでなく、バンド結成の地・早稲田大学のサークル、自身が育った教会のことなど多岐にわたった。ぜひ彼の言葉をアルバム理解の補助線にしてほしい。※
ただの真似事はしたくない
――アルバム発売を目前にした今のご心境はいかがですか。
「弾き語りは高校時代からやっていましたが、自分の音楽をアルバムという作品にまとめたのは初めてです。形容しがたい感慨がありますね。まだ信じられません」
――2021年5月に早稲田大学のサークル・The Naleioで結成してから3年。トントン拍子のアルバムリリースとも言えそうです。
「恵まれてますね。活動を続けていくなかで曲もどんどん増えていきましたし、素敵なイベントにもブッキングしてもらえて、ありがたい限り。
ただ3年と聞くと〈そんなにやってたっけ?〉と感じます(笑)。僕が留学していた1年のブランクがありますし、実質的に本格的な活動が始まったのは、2022年に出演した下北沢THREEでの深夜イベントからだという感覚なので」
――当初からメジャーな存在になることを志向していました?
「最初から〈サークルの中だけに留まりたくないよね〉とは話していましたが、メンバーのコミットの仕方はそれぞれでした。でも〈アルバム作ろうぜ!〉〈デモテープを作って色々なところで流してもらおう!〉と一致してから、個々の表情が変わったのを覚えています。
デモができてからは逞しい顔付きになって、音楽のことは衝突しても最後まで話し尽くしたり。音楽に対するリスペクトや熱量をそれぞれが持つようになりました」
――メンバー間で衝突もあったのですね。
「(ギターの登山)晴は陶芸もやっているし、(ドラムスの清水)直人も作曲が上手くてバンドのコンポージングの起点になる。ボイシングでサウンドの鍵になるのは(キーボードの西山)心で、ベースラインなら(高橋)継。みんな自我が強いので、どこかしらで衝突するんですよ。ただ、口論ではないですね。目的が何かをいつも考えながら、理由を示しながらアイデアを整理していく感じ」
――曲作りはどのように?
「基本の曲作りは各メンバーから上がってきた素材を集めて、僕のPCでデモに仕上げていきます。アルバムはプリプロ/デモ段階の全曲のミックスとマスタリングも僕がやって、最後はエンジニア・(市川)豪人君に投げてAbleton Liveで仕上げてもらいました。本作のレコーディングはドラムとボーカル以外、彼の家でやりましたね。
メンバーが使っているのはほとんどLogic Proですが、直人だけがPCのスペック的な理由でGarageBand(笑)。でもガレバンでLogicを超えるような曲を作ってくるんですよ。〈すげえな。ビートを売ればいいのに〉といつも思ってます」
――てひょんさんのルーツである韓国や登山さんが暮らしていた中国・香港、そして日本とメンバーそれぞれのバックボーンから黄色人種としての自覚が強いと聞いています。これはバンドの音楽的なコンセプト〈アジアンソウル〉にも関係するとのことで、詳しく聞きたいです。
「僕たちのルーツは日本以外のところにもあるけど、大きく考えてアジアにいる訳です。やっている音楽も〈ブラックミュージック〉と呼ばれるもので、生半可にできるものではないし、先人の音楽も当然吸収しなければいけない。でも、ただのレプリカを作りたくはなくて。先人だって当時、作品を残す段階で、ただの真似事はしてなかったはずですし。ロバート・グラスパーも『Black Radio 2』の“I Stand Alone”で〈時代とともにリピートされ、ラウンドを経る毎に新しい要素が付けたされるから音楽は素敵なんだ〉と言っていました。それとまったく同じだと思うんですね。
僕らの影響源はジャズやR&B、ゴスペルに限らず日本や韓国、香港の音楽などもあるので、それを踏まえたHALLEYの音楽は何かと考えるのが大事。それがバンド名の由来である〈YELLA(YELLOWのスラング)〉に繋がるんです。音楽にとって地域性は大事な要素ですし、アジアのソウルミュージックを定義付けたいと」