新たな才能が続々と登場している日本の音楽シーン。サブスクやショート動画が全盛期の今、その数もスピードもますます上がっていると言えます。そんな2025年の年始企画として、Mikiki編集部が選ぶ今年注目の新人邦楽アーティストを前後編に分けてお届け。編集部員の紹介文や楽曲をぜひチェックしてください。この記事が新たな出会いの一助になれば幸いです。 *Mikiki編集部


 

小田淳治 編
Furui Riho

2019年リリースの”Rebirth”を聴いた時、音楽における身体能力が異常に高い人だなと思った。2024年度の〈タワレコメン・アーティスト・オブ・ザ・イヤー〉に選出されたのも納得で、2ndアルバム『Love One Another』はゴスペルやR&Bといった自らのルーツと地続きでありながら、これまで以上にポップスの純度が高まった傑作だ。knoak、A.G.Oなどタッグを組む人選も的確で、彼女のボーカルの旨みを最大限活かすプロダクションに惚れ惚れする。三浦大知とも対等にわたり合えることを証明しているので(アルバム『OVER』収録の“Everything I Am”に客演参加)、これからのステップアップにただただ期待。

 

向田民子

〈未だ平成を生きる音楽家〉とのプロフィール文を本気と取るか冗談と取るか。現在唯一配信されている“花束の中に”を聴く限り、どうやら向田民子の中では本当にまだ平成は終わっていないみたいだ。noteに綴られている“花束の中に”の制作背景を読むに、90年代の匂いがする打ち込みのサウンドは歌詞を引き立たせるための役割もあったり、リリックのリズムにまとまりを持たせるよう細かく韻律を整えたりと、かなりの確信犯だ。TikTokInstagramには続々と新たな楽曲がアップされていて、いずれも平成レトロ/令和トレンディな良曲ばかり。昨年末に〈来年は売れます!!〉と本人が書いてるので、ここで言い切っておこうと思う。向田民子、2025年に売れます。

 

First Love is Never Returned

tuki.や離婚伝説らとともに2024年のSpotify〈FADAR: Early Noise〉に選出された北海道の5人組。タイトルからズルい“夜的平成浪漫”は地獄のような猛暑だった2024年の夏をロマンチックなムードに変えてくれたし、トレンディなポップチューン“それが恋だと言ってくれ!”は曲中に突如ハードロックなセッションへと切り替わったりと、安易にジャンル分けができないあたりクセ者集団と言いたくなる。楽曲によってはフリージャズっぽい要素、パッション・ピットやポスタル・サーヴィスにも近い2000年代のシンセポップの成分なども感じられる。とにかく一度ライブでそのポップネスを浴びたい!

 

Sala

2021年に“Bossa feat. FLEUR, 熊井吾郎”をヘビロテしていたが、昨年の正月にApple JapanのCMから“Balloons”が流れてきた時には心底驚いた。トラックメイクなどを担う兄Ryoma Takamuraとともに湘南で育ったSalaの歌声は実に繊細で、R&Bだけでなく全方位に適応できる声質だと思う。インタビューを読むに、Ryomaが摂取してきた2000年前後の日本産ラップなどの影響が多大に作品へと反映されているらしいが、そうしたY2Kに完全に染まりきらないSalaのフロウがいい味を出している。1stアルバム『EVERY HOUR』収録の“花一匁”“Gacha Gacha”などを聴くと、リリック面での遊び心や物事を独自の視点で切り取る能力にも長けているようだ。m-floと〈loves〉したら絶対に合うはず。

 

Fictreal C

2022年10月に始動した〈しー〉によるソロプロジェクト。藤井 風“花”のカバーで知り、その流れで他の動画もチェックしたがどれも秀逸なアレンジばかり(勝手な想像だがAvec Avecあたりに影響されてそう)。2024年に発表された“unlock”“MY ROCK”“ウソカマコトカ”とオリジナル曲の精度も高く、メロディーや音色ではシティポップやR&Bを、歌詞におけるトリッキーさからはハロプロなども感じる。カバーした楽曲とそのアレンジを自らの栄養素として消化していて、相当なスキルとしなやかな感性を持ち合わせていると思う。ぷにぷに電機などが好きな人に薦めたい。