DJがダンスフロアの司祭と喩えられる理由は、クラウドの心の動きを聞き取り、理想郷を創造するから。 韓国発、世界中のパーティーを歓喜に導くペギー・グーが初アルバムで耳を傾けた、内なる声の意味とは?
地下から煌びやかな舞台へと
ファッション・アイコン的な存在感に評価を保留にしているリスナーがいようとも、彼女が新世代のスーパースターDJであることは否定のしようがない。ペギー・グー――91年、韓国生まれ、いまや世界中のビッグ・パーティーで大観衆を沸かすDJ/トラックメイカーが、ついに初アルバム『I Hear You』を完成させた。開放的なヴァイブスに溢れた同作は、多くのリスナーにダンス・ミュージックとの幸福な出会いをもたらすだろう。
そんな彼女自身のDJカルチャーとの出会いは、14歳のときに移住したロンドンにて。そこでナイトクラビングにハマったペギーの〈人生を変えた一枚〉は、ローマン・フリューゲルの2011年作『Fatty Folders』だという。同作を機にテクノやハウスを掘りはじめ、レコード・ショップのフォニカなどへと通うように。やがてDJと楽曲制作をスタートした。
2014年にベルリンへと居を移した彼女は、2016年にレディオ・スレイヴの運営するリキッズより2作のEPシリーズ『Art Of War』をリリース。同年、フォニカから『Day Without Yesterday / Six O Six』、ニンジャ・チューン傘下のテクニカラーよりEP『Seek For Maktoop』を発表した。デトロイト・ハウスやエレクトロ、当時の地下シーンを席巻していたロウ・ハウスを思わせるウォームな質感のサウンドが支持を集め、徐々に彼女の名は知られていく。この時期のインタヴューで、ペギーは〈ベルクハイン(ベルリンの有名なクラブ)でDJする初の韓国人女性になりたい〉と語っているが、その夢は早くも2017年に実現。なお、この年にはDJとして初来日も果たしている。
とはいえ、ペギーが本格的にブレイクしたのは2018年以降。ニンジャ・チューンからのEP『Once』に収録された“It Makes You Forget (Itgehane)”、みずから運営するグドゥから発表した2019年の『Moment EP』収録曲“Starry Night”といった、彼女自身の韓国語によるヴォーカルをフィーチャーしたポップなハウスがフロア・アンセムに。2019年には名門ミックスCDシリーズ『DJ-Kicks』に起用され、コード9やエイフェックス・ツインなどを選曲し、DJとしての幅を印象付けた。
以降もヒョゴのオ・ヒョクを迎えた“Nabi”、DJコーツェとモーリス・フルトンによるリミックスも作られた“I Go”(共に2021年)など魅力的な楽曲を定期的に届けつつ、2022年にはカイリー・ミノーグ“Can’t Get You Out Of My Head”の新リミックスを担当。さらに自身のアパレル・ブランド〈キリン〉を展開するなど、ペギーの周囲は常に煌びやかな話題で取り囲まれていた。