©Mark Seliger

こんな時代だからこそ拳を挙げて共に歌おう、ビートを感じながら踊ろう――エナジーとパッションが漲るニュー・アルバム『Blue Electric Light』を携え、愛の伝道師が帰還!

愛に支配させよう

 長いキャリアを有するミュージシャンが発表した久しぶりのアルバムが、本来の持ち味と魅力が最大限に引き出された傑作となっていること。それはファンにとって、このうえない喜びだ。ローリング・ストーンズの『Hackney Diamonds』もパール・ジャムの『Dark Matter』もそういうものだった。デビューから35年の活動歴を持つレニー・クラヴィッツの、約6年ぶりの新作『Blue Electric Light』もまた然り。〈これぞレニー!〉と言うしかないロックンロールとファンクとソウルとブルースのハイブリッドでありながら、驚くほどフレッシュで生気に満ちている。余計な装飾を施したりせず、いままで以上に衝動に素直になって作られたダイナミックな作品だと感じる。

 「どんなときも自分のやるべきことをやっている。そして常にいまが自分にとってのベストでありたい。だから、キミがそう感じてくれたことは素直に嬉しいよ」。

LENNY KRAVITZ 『Blue Electric Light』 Roxie/BMG(2024)

 バハマのエルーセラ島とパリの16区に自宅を持つレニーだが、パンデミック以降はバハマで過ごし、今作もそこにある自身のスタジオで録音。このインタヴューもバハマとZoomを繋いで行なった。

「ここは周りに人がほとんどいない素朴な場所なので、コロナ禍の間も僕の暮らしはさほど変わらなかった。世界が動きを止めてしまったので、どこかに行く必要もなく、ただその瞬間を生きることができた。それがよかったんだね。そうした暮らしのなかからアルバム数枚分の曲が生まれた。そのなかで初めに聴いてもらいたかったのが今作の収録曲っていうだけで、ほかにも多数の曲が出来たんだ。締め切りに追われることもなかったから、録音して、磨きをかけて、その曲を寝かせながら別の曲を録音して、また前の曲に戻って……。自分が完全に納得いくまで作業を繰り返すことができたんだよ」。

 そうして完成した今作に限りなくダークな曲はない。明るくて、ポジティヴで、ダンサブルで、尋常じゃないエネルギー量で聴く者を昂揚させもすれば、幸福感で包み込みもする。起きてはならない戦争が起き、ますます分断が進むこの世界において、愛とジョイ、音楽とダンスこそが憎しみの連鎖に対抗できる唯一のものなのだという彼の信念がこういうアルバムを作らせたのだろうか。

 「ひとつ言えるのは、すべてを癒すのが愛だということ。だから僕はそれを自分の表現方法として選んでいる。音楽とは愛を増幅させるもの。〈今回はこうしよう〉と考えたのではなく、もともと自分のなかにあるものだから、ごく自然にこうなったという感じなんだ。最初のアルバムでも僕は言ったじゃないか。〈Let Love Rule(愛に支配させよう)〉ってね。そこからすべてが始まっているんだよ」。

 12曲中、レニー単独で書いた曲が8曲。長年一緒にやっているギタリストのクレイグ・ロスとの共作が2曲。そしてあとの2曲――“Bundle Of Joy”と“Heaven”はレニーと共に亡きトニー・ルマンの名がクレジットされている。レニーとトニーは中学時代からの友達で、かつて一緒にロメオ・ブルーというバンドをやっていたが、レニーのソロ・デビューにあたって解散。残されたトニーに手を差し伸べたのがあのプリンスで、ペイズリー・パークから89年に『Tony LeMans』でデビューした。しかし2作目の準備中だった92年6月、交通事故に遭って死去(結婚式を翌日に控えていた)。そのトニーとの共作曲を今作に入れたのには、どういう理由があるのだろうか。

 「僕らは高3で一緒に音楽を作りはじめ、デュオとしてレコード契約も持ち掛けられた。トニーとはたくさんのことを一緒に経験した。彼が若くして命を落としたことは残念すぎる。兄弟のような存在だったからね。そんなトニーと、その当時一緒に作ったファンキーな音楽に敬意を表したかったんだ。“Bundle Of Joy”はトニーのアルバムに入っている曲だけど、プリンスの影響もあったし、スクリッティ・ポリッティのデヴィド・ギャムソンがプロデューサーだったこともあって洗練されたキレイなサウンドになっていた。でも、僕とトニーが作ったときはもっとロウなサウンドだったんだ。だからもともとのロウなサウンドであらためてみんなに聴いてもらいたくなったんだよ。今回のアルバムにもぴったりだと思ったしね」。

 

いまがいちばん最高さ

 名前が出たので、「あなたにとってプリンスの存在とは?」とも訊いてみた。

 「僕の先生の一人さ。高校生の頃から彼の音楽を聴いていた。素晴らしい手本であり、多くを教わった。『Let Love Rule』が出たあと、連絡をもらって会いに行った。それから徐々に友情が芽生え、やがて兄弟のような関係にまでなった。楽しい時間を過ごして、一緒にいっぱい笑った。会えないのが悲しいよ」。

 今作に収録の“Let It Ride”は密室的なエレクトロ・ファンクで、まさに80年代のプリンスを想起させるナンバーだ。

 「この曲は80年代、初期のクラブが流行っていた時代へのオマージュみたいな感じで作った。プリンスを意識して作ったわけではないけど、確かに彼は空間を活かしたリズム・オリエンテッドなトラックをよく作っていたね」。

 ロックンロール曲のなかでは〈愛は私の宗教 愛は私の神〉と繰り返す“Love Is My Religion”が熱い。

 「生きていくなかで、愛、神、人間、統一性、包括性についての想いがより強まった。僕がどう生きようとしているか、ってことだね。フットボール・スタジアムで人々が〈Love Is My Religion〉というフレーズを唱えている様子が頭に浮かび、アンセム・ソングにしようと思った。だからシンガロングや手拍子が入っている。みんなで拳を高く挙げて共に歌う曲だ」。

 一方、リラックスしたポップ・ソウル“Honey”を聴けば、幸福感でいっぱいになる。こういったスウィートでロマンティックな曲からもレニーの純粋なままの想像力を感じ取ることができる。

 「この曲は、ただ降りてきたんだ。蜂蜜のように甘くてトロっとしているところが気に入っている。甘くて、甘くて、甘くて、甘い。サウンド面でも特に気に入っている一曲だ」。

 最後を飾る表題曲“Blue Electric Light”は、これもまた80年代のプリンスを想起させるサウンドだが、今作におけるメッセージばかりかレニーのすべてが凝縮されているようでもある壮大なバラードだ。

 「これをアルバムのタイトルにするべきだと言ったのはクレイグなんだ。聴き返すうちにその理由がわかった。愛、神、精神、ポジティブ・ヴァイブレーション、セレブレーション。すべてがこの曲に詰まっていると思えたんだよ」。

 本作のリリースと同タイミングで、還暦を迎えるレニー。「いま、どんな気分ですか?」と訊くと、彼はこう答えた。

 「最高の気分だよ。心も精神も肉体もいまがいちばん状態がいい。この若々しさを手放すことなく続けていきたい。そうすれば人生はもっとよくなるはずだからね」 。

レニー・クラヴィッツの作品。
左から、89年作『Let Love Rule』、91年作『Mama Said』、93年作『Are You Gonna Go My Way』、95年作『Circus』、98年作『5』、2001年作『Lenny』、2004年作『Baptism』、2008年作『It Is Time For A Love Revolution』(すべてVirgin)、2011年作『Black And White America』(Roadrunner)、2014年作『Strut』(Roxie)

 

『Blue Electric Light』に繋がる、エクレクティックでソウルフルな近年の9枚

LENNY KRAVITZ 『Raise Vibration』 Roxie/BMG/ワーナー(2018)

ジャケとタイトルの通り、〈ヴァイブス上げてくぞー〉な姿勢を貫いた前作。楽器の鳴りから歌唱にいたるまでオーセンティックかつナチュラルな質感があまりに気持ち良いが、ここからまた電化バリバリの音像に新作で向かったのが興味深いところで。

 

COMMON 『A Beautiful Revolution Pt. 1』 Loma Vista/ユニバーサル(2021)

近年は客演の少ないレニーだが、2020年の米大統領選直前に配信先行で発表されたコモンの本EP収録曲“A Riot In My Mind”にチャックDと共に参加。〈戦争が起きている〉と歌われたこの曲は、悲しいことにいっそうのリアリティを帯びている。

 

PEGGY GOU 『I Hear You』 XL/BEAT(2024)

共に本号で表紙を飾ったペギーの初アルバムにレニーは参加。先行シングル “I Believe In Love”で艶っぽい歌唱を響かせている。セカンド・サマー・オブ・ラヴのムードが香るバレアリックなビートと、彼のスウェッティーな声の組み合わせは新鮮。

 

BRITTANY HOWARD 『What Now』 Island(2024)

アラバマ・シェイクスの中心人物たるシンガーのソロ2作目。レニー直系のロッキッシュなファンクを豪快に鳴らす表題曲を筆頭に音作りは凝っているが、ハウスからハイパーポップまで参照点の多彩さが作品に軽やかさをもたらしている。

 

STEVE LACY 『Gemini Rights』 L-M/RCA(2022)

レニーをロールモデルに挙げている若きギタリストの全米No.1ヒット曲を含む2作目。チルなR&Bやサイケ・ポップ、MPBなどを新世代ならではの柔軟なセンスで混ぜ合わせており、こってり感はありつつ、重くなりすぎない点が両者の共通項か。

 

Hedigan’s 『2000JPY』 F.C.L.S.(2024)

YONCEが結成した新バンドの初EP。思えば、ハードなロック・アンサンブルと粘っこいグルーヴを融合させていたSuchmosはレニー的だったが、このバンドが中心に据えているのは、人間味に溢れた歌心。肩の力の抜けた感じがカッコいい。

 

BLACK PUMAS 『Chronicles Of A Diamond』 ATO/BIG NOTHING(2023)

テキサス出身のデュオによる2作目。アーシーなソウルを基調に、サイケデリックな意匠を加えていく音作りは意外にレニーと近い? 彼らの出自であるカーマ・チーフ周辺の現行ソウル耳で『Blue Electric Light』や過去作を聴くのもおもしろいかも。

 

ALI 『MUSIC WORLD』 ソニー(2023)

ロック、ラテン、ジャズ……多才なルーツを持つトリオならではのハイブリッドな音楽性が魅力的なメジャー初作。全体を覆う高い熱量が作品に特別な強度をもたらしており、“SPARKLE”のサルサ・カヴアーという反則技にさえ親指立ちまくり!

 

VARIOUS ARTISTS 『Gomma Dancefloor Gems Vol. 2』 Toy Tonics(2024)

レニー新作のロッキン・ エレクトロな音作りに思い出したのが、2000年代にパンキッシュなファンクで人気を博したレーベル、ゴマ(現在は休止中)。こちらは傘下のトイ・トニックスから先日発表されたコンピ第2弾。もしやこのあたりの再評価きてる?