こんな時代だからこそ拳を挙げて共に歌おう、ビートを感じながら踊ろう――エナジーとパッションが漲るニュー・アルバム『Blue Electric Light』を携え、愛の伝道師が帰還!
愛に支配させよう
長いキャリアを有するミュージシャンが発表した久しぶりのアルバムが、本来の持ち味と魅力が最大限に引き出された傑作となっていること。それはファンにとって、このうえない喜びだ。ローリング・ストーンズの『Hackney Diamonds』もパール・ジャムの『Dark Matter』もそういうものだった。デビューから35年の活動歴を持つレニー・クラヴィッツの、約6年ぶりの新作『Blue Electric Light』もまた然り。〈これぞレニー!〉と言うしかないロックンロールとファンクとソウルとブルースのハイブリッドでありながら、驚くほどフレッシュで生気に満ちている。余計な装飾を施したりせず、いままで以上に衝動に素直になって作られたダイナミックな作品だと感じる。
「どんなときも自分のやるべきことをやっている。そして常にいまが自分にとってのベストでありたい。だから、キミがそう感じてくれたことは素直に嬉しいよ」。
バハマのエルーセラ島とパリの16区に自宅を持つレニーだが、パンデミック以降はバハマで過ごし、今作もそこにある自身のスタジオで録音。このインタヴューもバハマとZoomを繋いで行なった。
「ここは周りに人がほとんどいない素朴な場所なので、コロナ禍の間も僕の暮らしはさほど変わらなかった。世界が動きを止めてしまったので、どこかに行く必要もなく、ただその瞬間を生きることができた。それがよかったんだね。そうした暮らしのなかからアルバム数枚分の曲が生まれた。そのなかで初めに聴いてもらいたかったのが今作の収録曲っていうだけで、ほかにも多数の曲が出来たんだ。締め切りに追われることもなかったから、録音して、磨きをかけて、その曲を寝かせながら別の曲を録音して、また前の曲に戻って……。自分が完全に納得いくまで作業を繰り返すことができたんだよ」。
そうして完成した今作に限りなくダークな曲はない。明るくて、ポジティヴで、ダンサブルで、尋常じゃないエネルギー量で聴く者を昂揚させもすれば、幸福感で包み込みもする。起きてはならない戦争が起き、ますます分断が進むこの世界において、愛とジョイ、音楽とダンスこそが憎しみの連鎖に対抗できる唯一のものなのだという彼の信念がこういうアルバムを作らせたのだろうか。
「ひとつ言えるのは、すべてを癒すのが愛だということ。だから僕はそれを自分の表現方法として選んでいる。音楽とは愛を増幅させるもの。〈今回はこうしよう〉と考えたのではなく、もともと自分のなかにあるものだから、ごく自然にこうなったという感じなんだ。最初のアルバムでも僕は言ったじゃないか。〈Let Love Rule(愛に支配させよう)〉ってね。そこからすべてが始まっているんだよ」。
12曲中、レニー単独で書いた曲が8曲。長年一緒にやっているギタリストのクレイグ・ロスとの共作が2曲。そしてあとの2曲――“Bundle Of Joy”と“Heaven”はレニーと共に亡きトニー・ルマンの名がクレジットされている。レニーとトニーは中学時代からの友達で、かつて一緒にロメオ・ブルーというバンドをやっていたが、レニーのソロ・デビューにあたって解散。残されたトニーに手を差し伸べたのがあのプリンスで、ペイズリー・パークから89年に『Tony LeMans』でデビューした。しかし2作目の準備中だった92年6月、交通事故に遭って死去(結婚式を翌日に控えていた)。そのトニーとの共作曲を今作に入れたのには、どういう理由があるのだろうか。
「僕らは高3で一緒に音楽を作りはじめ、デュオとしてレコード契約も持ち掛けられた。トニーとはたくさんのことを一緒に経験した。彼が若くして命を落としたことは残念すぎる。兄弟のような存在だったからね。そんなトニーと、その当時一緒に作ったファンキーな音楽に敬意を表したかったんだ。“Bundle Of Joy”はトニーのアルバムに入っている曲だけど、プリンスの影響もあったし、スクリッティ・ポリッティのデヴィド・ギャムソンがプロデューサーだったこともあって洗練されたキレイなサウンドになっていた。でも、僕とトニーが作ったときはもっとロウなサウンドだったんだ。だからもともとのロウなサウンドであらためてみんなに聴いてもらいたくなったんだよ。今回のアルバムにもぴったりだと思ったしね」。