日本語版も存在する“Bubble Gum”
ここ日本では初となるファンミーティング〈Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome〉の開催を目前にして巻き起こった騒動をよそに、NewJeansは新曲をリリースするたびに、新機軸によって聴き手へ驚きと感動と発見をもたらしている。心労に苛まれるBunniesの逃げ場は音楽の中にこそある、とでも言うかのように。
2024年4月8日、花王のEssential Premium〈きらめく朝、はじまる。〉篇というテレビCMが日本全国で放送開始。このCMに出演したのがNewJeansの5人であり、起用されたのが新曲“Bubble Gum”だった(同時にフジテレビ系のテレビ番組「めざまし8」でもテーマソングとして使用されている)。デビューから2年弱、日本語詞の曲を発表してこなかった(そして、そこに一貫した美学が感じられた)5人が日本語(+韓国語+英語)で歌っている、という点でも大いに注目された。
ミン・ヒジンとHYBEを巡る大騒動の最中、“Bubble Gum”のミュージックビデオが公開されたのが4月27日で(“How Sweet”とのカップリングとしてストリーミングサービスで聴けるようになったのは5月24日)、曲の全貌はそこでようやく明らかになった。最初と最後のヘインの語り、ショートカット(のウィッグ)でイメージを一新しファンの心を鷲掴みにしたハニのニュールック、まさに夢の中の出来事としか思えないNewJeansの美学が貫かれた映像、海辺ではしゃぐ5人の姿など、MVを深読みして語り出したらきりがないのでやめておこう。
まずは、この“Bubble Gum”に日本語詞がまったく含まれておらず、韓国語と英語のみで歌われていたのが、日本のBunniesを驚かせた。ジャパニーズバージョンはどこにいったの!?と。6月21日に発表される日本でのデビューシングル『Supernatural』にはタイトルナンバーと新曲“Right Now”が収録される予定なので、日本語版の“Bubble Gum”はまた別の機会にリリースされるのだろうか?
ディスコやソウル要素が色濃い作曲とプロダクション
さて、ひとまず本稿では、音楽面を掘り下げてみたいと思う。夢見心地のエレクトリックピアノの調べとともに幕を開ける“Bubble Gum”は、シティポップ的だとよく言われている。高橋芳朗もTBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」で「現代的解釈のシティポップ、もしくはディスコ」と解説しているが、ストレートなシティポップ風というよりも、アメリカのディスコやファンク、R&Bの要素の方が色濃いだろう。
特に印象に残るのがバースとコーラス(サビ)の間にあるリフレインのパートで響くフルートっぽい音色のフレーズで、浮遊感をたっぷり纏った音が曲全体を軽やかに飛翔させている。
ここで思い出すのが、ヴァン・マッコイ&ザ・ソウル・シティ・シンフォニーによる優雅なディスコの名曲“The Hustle”(1975年)である。メロディも若干似ているが、あの曲の特徴的なフレーズ、ディスコやダンスミュージックでたまに使われるフルートの演奏が、“Bubble Gum”のリフレインから聴こえてくる。あるいは、のちのハウスクラシック、フランキー・ナックルズの“The Whistle Song”(1991年)を思い出さなくもない。
似たようなソウル/ディスコの例で、ザ・スタイリスティックスの名曲“Can’t Give You Anything (But My Love)”(1975年)があるが、実はこちらもヴァン・マッコイが編曲している。フルートこそ使われていないものの、音を細かく刻んでメロディを織るストリングスの反復的なフレーズや曲の構成に共通点が見出だせる。“愛がすべて”という邦題で知られ、木村拓哉が出演したマンダム〈ギャツビー〉の2006年のCMでも使用された曲なので、聴いたことがある人も多いだろう。
ジャズファンクやフュージョンといったジャンルの中間に位置するスムーズなサウンドが売りのイギリスのバンド、シャカタクの“Easier Said Than Done”(1981年)は、“Bubble Gum”との類似性が指摘されている。トレンディドラマの元祖「男女7人夏物語」(1986年)と「男女7人秋物語」(1987年)で曲が使われたこともあって、バブル期から現在に至るまで日本での人気が特に高いシャカタクだが、アメリカの音楽とは異なる彼らの軽さ、柔らかさや清涼感、ジャンル分けしがたい折衷性はたしかに共通しているし、そもそも議論されているように旋律が似ている。そして、それこそが、“Bubble Gum”がシティポップやAORを好む日本人の耳になじむ理由の一つだろう。