新曲をリリースするたびに音楽的な試みが注目を集めるNewJeans。彼女たちの日本デビューシングル『Supernatural』は、表題曲がニュージャックスウィングを取り入れたことや過去のJ-POPとの共通点が話題になっている。本邦での初の単独公演〈NewJeans Fan Meeting ‘Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome’〉の熱狂が冷めやらぬ中、hiwattがこの曲のサウンドからMV、歌詞まで包括的に論じた。 *Mikiki編集部
特別な曲にニュージャックスウィングを取り入れた理由
NewJeans、3年目の夏。彼女達の第1章が終わろうとしている。
2022年7月22日にHYBE LABELSのYouTubeチャンネルから“Attention”が公開され、NewJeansはデビュー。チョップされたボイスサンプルから始まり、1980年代中期〜1990年代初頭にかけてアメリカから世界的に流行した、ニュージャックスイング(以下:NJS)を再構築した鮮烈なサウンドのこの曲によって、K-POPファンはもちろんのこと、世界中の耳利きからも注目を集めた。それから丸2年の間に、世界で最もハイプなガールズグループとなるまで成長を遂げた彼女たちだが、最新シングル“Supernatural”は、グループの一つの区切りを告げる特別な曲だ。
デビュー曲と同じようにチョップされたボイスサンプルから始まるこの曲だが、このイントロの時点で当初から応援してきたファンには感慨深いものがあるだろう。だが、ここからが違う。この曲ではオーセンティックなリアルタイムのNJSを取り上げているのだ。
NJSのリアルタイム、つまりは1980年代。ニューウェーブを始めとする、デジタルシンセサイザーとゲートリバーブで成り立っていたこの時代の音楽は、ここ30年ほどの間〈ダサい音楽〉の代表格だとされていた。ただ、Netflixドラマ「ストレンジャー・シングス」の流行や、ブルーノ・マーズが“Finesse”(2016年)でNJSを取り上げたこと、ザ・ウィークエンドらの活躍によって、2010年代半ばから価値の反転が起こった。そうした流れもあって、今回の“Supernatural”をすんなりと受け入れられた側面もあるとは思うのだが、それだけではない。
バブル期日本の音楽を〈懐かしいけど新しい〉に変換するプロデューサー250
“Supernatural”をはじめ、NewJeansの楽曲の多くを手掛けている、韓国人プロデューサーの250(イオゴン)。彼は、自身のソロワークで韓国のポンチャック(日本の演歌から派生したトロットという音楽ジャンルの蔑称)を現代において再解釈する活動をしている。
イ・パクサを中心に広まったポンチャックとは、1996年に電気グルーヴがイ・パクサとのコラボ作品、『ひらけ!ポンチャック』をもって日本に持ち込んだことで、日本でもコアな音楽ファンには認知されているが、お世辞にもかっこいいとは言えないチープな電子音が主体の音楽。250曰く「みんなが知っているのに誰の目にもとまらない、どこからも聴こえてくるのに自分からは聴かないような音楽」だという。だが、そこに面白さを見出した彼は、「ポンチャックは韓国のBGMなんだ」と語っている。1
そうした時に、日本におけるポンチャック、それがNJSなのではないかと考える。“Supernatural”は〈日本デビュー曲〉としてリリースされたわけだが、NJSを押し出したのは、日本人のBGMとして生活に浸透している音楽だからではないだろうか。リアルタイムには、久保田利伸やSMAP、ZOO、SPEEDなど、J-POPシーンでもNJSを基にした楽曲は人気を博した。だが、スーパーマーケットで流れるインスト曲や、平成初期から流れ続ける地方の企業CM、バブル期にオープンしたテーマパークの音楽など、NJS風の楽曲は令和の今も日本のあちこちで流れている。ハードオフの店内BGMと言えばわかりやすいかもしれないが、誰もが〈安っぽくて古くてダサい〉と思ったことがあると思う。その背景には、打ち込み黎明期に流行っていたのがNJSで、生楽器の録音を要さず、短期間に低予算で大量に作ることができ、それが広まったことが推察される。
ただ、そういった身の回りに常にあったものは、誰もに〈懐かしい〉という個人の中で熟成された感情を生むし、各々の記憶や経験という文脈に結びついており、表現としてリーズナブルな上に強力なのである。そんな〈安くて古い〉音楽の価値を、〈懐かしいけど新しい〉に転換させるのが250の音楽家としての特性であるし、ハイプなものとして表現してしまうのがNewJeansなのだ。