マイアミベースを取り入れた“How Sweet”

前の記事では“Bubble Gum”を聴き込んだが、対して、シングルの表題曲である“How Sweet”は、CDや配信のリリースと同日の5月24日にMVも公開された

これまたMVについて語りはじめると長くなるので省略するが、音楽面ではマイアミベースを取り入れたことが最大のトピックだろう。新曲を発表するたびに〈そうくるか〉という驚きを運んでくれるのがNewJeansではあるものの、今回選んだスタイルがマイアミベースだったというのが、また意外である。とはいえ、“Ditto”で取り入れたボルチモア/ジャージークラブの根っこの一つにある音楽でもあるので、納得感は強かった。

 

マイアミベースとは何か

そもそも、マイアミベースとは何か。マイアミベースというのは、1980~1990年代に盛り上がったヒップホップのサブジャンルで、その名のとおり米フロリダ州マイアミのシーンから生まれたものだ。元々は、アフリカ・バンバータ&ザ・ソウル・ソニック・フォースの“Planet Rock”(1982年)やマントロニクスなどに象徴されるエレクトロ(エレクトロファンク)というヒップホップのジャンルから同地で発展している。現在に至る南部のヒップホップサウンドの、重要なルーツの一つだろう。

マイアミベースの特徴は、ローランドの著名なドラムマシーン、TR-808による、打音を細かく刻んで詰め込んだ速いテンポのビートと、カーオーディオ映えする太く強調されたベースである。狂騒的というか、やかましいほどの粗野なムードがビートやプロダクション全体にあり、またダンスや過度に性的で卑猥なリリックとともに発展してきたパーティミュージックであることもポイントだ。

最初期の代表例とされているのが、2ライヴ・クルー(曲が一部の州で猥褻物として規制されたグループ)の“Throw The D”(1986年)や、クラフトワークの“Trans-Europe Express”を引用したMC ADEの“Bass Rock Express”(1985年)など。1990年代に入ると、95サウスの“Whoot, There It Is”(1993年)や69ボーイズの“Tootsee Roll”(1994年)のようなヒット曲も生まれるようになった。

さらに、ヒップホップの要地アトランタにも影響を及ぼし、同地でよりR&B寄りのポップな曲が制作されるようになり、アトランタベースとして盛り上がったことも知られている(これについては、高橋芳朗のブログ記事が詳しい)。ドレイクによる“Rich Baby Daddy”(2023年)やベイビーフェイスの“Girls Night Out”(2022年)、ビヨンセの“AMERICA HAS A PROBLEM”(2023年)、さらにTWICEの“MOONLIGHT SUNRISE”(2023年)が部分的にマイアミ/アトランタベース調であるなど、現在もヒップホップ、さらにはK-POPの曲で参照されることが少なくないスタイルだ。

 

エレクトロからデトロイトテクノに至る回路

マイアミベースのおもしろさの一つは、1980~1990年代、テクノやハウスといったエレクトロニックダンスミュージックがヒップホップの領域と重なっていた時代における、未分化な感覚や影響関係にもある。

その意味で“How Sweet”は、これも高橋が指摘していたとおり、エレクトロとテクノへの発展期に生まれたサウンドにも通じている。高橋はホアン・アトキンスとリチャード・デイヴィスによるユニットのサイボトロンによる名曲“Clear”(1983年)を挙げていたが、そのホアンによるモデル500やデトロイトテクノの深淵ドレクシアなどの作品と聴き比べてみると、“How Sweet”のダンスミュージック的な側面の奥深さが炙り出されてくるはずだ。

シンプルな4/4拍子のイーブンではないキックとベースが生む心地よいグルーヴ、TR-808のカウベルやシンバルの音を連打することによるアッパーな快楽性。“How Sweet”は、そんな電子音楽の旨味に満ちていると言えよう。