音楽の前衛としての電子音楽

 1950年代初頭、当時の電子音楽やミュージック・コンクレートなどの新興音楽の台頭に伴い、1951年には、西ドイツ(当時)でケルン電子音楽スタジオが開設されたのを嚆矢として、その後、フランスやイタリアの放送局などで電子音楽スタジオの開設が開始された。日本でも1954年にNHKが電子音楽スタジオを設立し、黛敏郎や諸井誠といった作曲家と、塩谷宏、佐藤茂、小島努といった技術者らが協働し、新しい領域としての電子音楽表現を追求した。1966年には、カールハインツ・シュトックハウゼンが来日し、〈テレムジーク〉の制作を行なうなど、1960年代にはテクノロジー・アートの台頭とも同期するように、特に1970年の大阪万博での需要をピークにして、1970~80年代を通じて、多くの作曲家と技術者の協働が行なわれた(しかし、1999年にスタジオは閉鎖)。

松平頼曉 『音の始源を求めて13 松平頼曉 ZENEI(前衛) ELECTRONIC MUSIC EDITION』 SOUND3(2024)

 設立当初から、全盛期と言われる1960~70年代は、来るべき電子音楽の時代への期待があっただろう。そして、湯浅譲二、松平頼暁、一柳慧、高橋悠治といった最前線の作曲家が、NHK電子音楽スタジオで、電子テクノロジーによる音楽の可能性に挑戦した。〈音の始源(はじまり)を求めて〉は、その貴重な作品を発掘し、リリースするシリーズである。1993年の塩谷宏の作品集に始まり(技術者を中心にしていることが、このシリーズの特色であり、NHK電子音楽スタジオの特徴を表してもいる)、今回13枚目となるのは松平頼暁の作品集である(11枚目からは作曲家ごとの編集方針に変わった)。電子音楽は、作品自体が録音物として記録されることになるため、その再現性のクオリティは作品の印象を大きく変える。収録されている“トランジェント ’64”と“テープのためのアッセンブリッジス”の2作品は、これまでにもCDでリリースされたことのある松平の電子音楽の代表作であるが、今回のリリースでは、あらためて2作品のきわめてノイジーな音色の魅力を堪能することができる。

 松平は、立教大学理学部教授として教鞭をとっていた生物物理学者であったことはよく知られている。この2作品はシステマティックに構築された、情念的なものを介入させないという作曲的な姿勢によって制作されている。しかし、それにもかかわらず、不確定な要素が導入されることでその趣は大きく変化する。本来、電子音楽というものが、制作方法のみならず聴取者の理解においても、これまでの音楽とは異なる思考を要請するものであったことをあらためて考えさせられるものである。

 


LIVE INFORMATION
NHK電子音楽スタジオ70周年記念事業Vol.4
「残された電子音楽名曲選」Last Edition

2024年7月18日(木)Artware hub KAKEHASHI MEMORIAL
開演:18:30
https://sound3.buyshop.jp/