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信州ジャズから聴き手に寄り添う虹色の音楽を奏でるジャズ・イリゼへ

――さて、そんなおふたりがどのような経緯でジャズ・イリゼを結成されたのでしょうか。

伊佐津「2012年に〈信州ジャズ〉というコンセプトで活動を始めるようになって、これまでにCDを4タイトル出しています。コンサートも主に県内でやっていたんですが、その新春コンサートに邦子さんにゲスト出演していただいたことが結果として、ジャズ・イリゼにつながったというような感じですね」

――その〈信州ジャズ〉というのは?

伊佐津「安曇野は、目の前に北アルプス連峰が広がっているような環境です。季節によっても、日によっても景色が変わり、色合いまでが違ってきます。晴れの日が多く、青空や木々の緑、湧水が本当にきれいで、それらにインスパイアされてオリジナル楽曲を作曲したり。また、“木曽節”をはじめ信州ゆかりの唱歌など名曲もいろいろあるので、それらをジャズのアレンジで演るのが〈信州ジャズ〉のコンセプトです」

――実際に共演されて、ピアノと箏の相性はいいものでしたか?

伊佐津「とても相性がいいと思います」

渡辺「リハーサルで初めて合わせたんですけれども、これまでやってきた音楽とは全然違って、もうワクワクで楽しくて、これをずっとやっていきたいという想いでした」

――そこからユニット結成へ?

伊佐津「コロナ禍にいろいろなことが滞ってしまい、その時期に音楽で目指していることは同じだったので、ぜひ一緒にやりましょうと」

渡辺「さゆりさんの曲やアレンジがなにかすんなりと自分の中に入ってきたんです。和楽器に合うというか、箏に合うメロディという感じがすごく強くて、ぜひにと」

伊佐津「その初期の頃から協力してくださっているのが同じ安曇野を拠点にしているベースの中島さんなんです。素晴らしいベーシストで、ライブもそうですし、今回のレコーディングにも参加してくださっています」

――コンセプト的なところは?

伊佐津「聴いた方に寄り添うような音楽というか、心に沁みるような音楽が出来たらいいなという気持ち、それを目標にやっています」

――ジャズ・イリゼのイリゼは、フランス語で〈虹色〉という意味ですか。なぜこの名前に?

伊佐津「いわゆるど真ん中のジャズではありませんが、ジャズ寄りの音楽で、ソロパートでは即興的な演奏もしますが、箏が入ることで響きに輝きが増して、音が虹色に変化していくんですね。箏の音が時にはハープだったり、ギターだったりに聞こえて、箏だけの音じゃないんです。そういうところからこの名前にしました」

 

箏の美しい音とジャズで演奏する、時代を超えた映画音楽

――では、3枚目のアルバム『シネマ・ソングス~シェルブールの雨傘~』についてうかがいます。今回なぜ全編映画音楽に?

渡辺「若い頃に洋画がすごく好きで、よく観に行っていたんですね。収録曲は半世紀前くらいの古い曲ばかりですが、時代を超えて今も残っています。それらの名曲を自分の箏で弾いているCDが聴けたら、こんな幸せなことはないと思って、さゆりさんに相談したところ、〈いいんじゃない〉と言ってくださったので。具体的にはふたりで選曲しました」

――その選曲ですが、聴けば、納得するものの、最初は意外というか、箏をイメージしにくい曲がありました。たとえば、“007ジェイムズ・ボンドのテーマ”とか、映画「ウエスト・サイド・ストーリー」の“アメリカ”もラテンリズムの曲ですよね。

渡辺「“007”は、リズムに乗り切れないと演奏出来ないので、ちょっとチューニングを工夫しました。『ウエスト・サイド・ストーリー』も3回くらい映画を観ていて、自分の中に音楽が入っているからだとは思いますが、すんなり楽しく弾けましたね」

伊佐津「静かな曲ばかりじゃなくて、“007”のようなカッコいい曲も演奏したいと思ったので。ライブの時もそうなんですが、“007”のような曲の場合、箏がメロディをとるので、サックスの太田剣さんを含むバックの人達を邦子さんが先頭に立って引っ張っていく演奏がすごくカッコよくてね。今回も“007”を聴きながら、〈コレだ~〉なんて(笑)」

――“シェルブールの雨傘”と“ひまわり”は、箏とピアノだけの演奏ですよね。

伊佐津「まず“ひまわり”は、シンプルに箏をフィーチャーするイメージがあったのと、“シェルブールの雨傘”もメロディを聴かせたかったので、美しい箏を際立たせたいと思い、ふたりだけの演奏にしました」

――そう言えば、“シェルブールの雨傘”は、アルバムのサブタイトルにもなっていますね。

伊佐津「この曲のレコーディングが終わった時に、いい演奏が録れたねって、ふたりで自画自賛して(笑)。それでタイトルに入れようと決めました」

――“シェルブールの雨傘”の演奏は本当に楽しそうなのですが、反対に苦戦した、チャレンジングだった曲は?

伊佐津「あまりやったことがなかったという意味でチャレンジングだったのは、5拍子の“ミッション:インポッシブル”ですかね。でも、演奏するのはおもしろかったです」

――この曲には尺八も入っています。空気を震わせるような音が独特ですよね。

渡辺「尺八独特の自然の竹の音色ですよね。サックスなど金属的な音とは異なる、柔らかな竹の音が加わることで、それがまたイリゼの特長になるなと思っています」

伊佐津「今回初めて尺八を入れたのですが、演奏している渡辺淳さんは、邦子さんの息子さんなんです」

渡辺「淳も東京で、ピアニストの金益研二さんとユニットを組んでいて、作曲もするので、オリジナルの音楽を演っています」

 

箏の多彩な奏法を駆使して

――もう少し箏の話を聞かせていただけますか。さきほど伊佐津さんも〈ハープやギターのような音も出せる〉とおっしゃっていましたが、そういう音というのは奏法の工夫で弾けるものなんでしょうか。

渡辺「箏は爪をはめて弾くんですが、爪をはめていない指で弾くこともあります。それから弦の弾く位置が決まっているんですが、そこをちょっと変えることで音色が変化します。硬い音も柔らかな音も奏法次第でいろいろ出来る楽器だと思います」

――調弦は箏柱(ことじ)を動かすことで調整するのですか。

渡辺「ええ。箏柱でチューニングすることで、いろいろな音階が作れます。曲中の転調も箏柱を動かすことで可能ですし、これほど多様な楽器はないんじゃないかしらと思うくらいです。ただ、曲中の転調、たとえば、短い時間で♭から#に調弦するのはちょっと大変で、最初はそこを悩みました。さゆりさんの曲は、わりと転調があるので」

伊佐津「すみません(笑)」

渡辺「でも、転調があることで曲が変化するので、大事な要素だと思っています」

――箏でジャズと聞いて、最初華やかなグリッサンド奏法のようなものを多用しているのかなと思ったのですが……。

渡辺「私の中では、メロディを弾くことを意識しています。力の入れ加減で音色も、音量も変わりますので。グリッサンド、箏の言葉では〈流し爪〉と言って、弦を下りたり上がったりする奏法ですが、メロディのないところでは意識的に入れたりしています。他にはトレモロを取り入れたりも」 

伊佐津「邦子さんのトレモロが本当に美しいんです。聴くと泣いちゃいます。だから、時どき〈ここでトレモロを入れてもらえますか〉とリクエストしたりします。景色がすごく広がるんですよね。箏は、撥弦楽器なのでバイオリンなどの弦楽器と違って余韻が短いんです。なので、トレモロを入れることで、持続音を長く保つようにすることが出来るんですよね」

――〈押し手〉という奏法もありますよね。1曲目の“エンターティナー”では押し手を使っていますか。

渡辺「押し手は、左手で弱く弦を押すと、半音上がって、強く押すと、一音上がるんですね。音がチューニングの中にない時に押し手を用いるのですが、“エンターティナー”では頭から結構使っていますね。左手で弦を押さえながら、揺り、ビブラートをかけると、より音が伸びるので、そういう使い方をしています」

 

尺八が加わって広がったジャズ・イリゼの世界

――読者のみなさんにあらためて聴きどころをお願いします。

伊佐津「先ほども少し触れましたが、今回初めて渡辺淳さんに3曲で尺八を演奏してもらいました。尺八が入ったことで、イリゼの世界観が広がったところにも注目していただけるといいかなと思います」

――淳さんは、男性だから尺八を。

渡辺「そういうことではなく、最近は女性の尺八家も活躍していますよ。

尺八について少し補足すると、江戸時代は仏教音楽というか、お経の代わりに虚無僧が修行として尺八を吹いていました。その頃は、竹にただ指穴を開けただけでしたが、今は調律師がいて、穴の開け方で音階を作れるようにしています。ピッコロのような高い音が出る尺八もあります。そして、息の入れ方、吹き方で音色が変わるし、ムラ息といって楽譜に書けない音も出せるので、箏よりもいろいろな音色が出せる楽器だと思います」

――最後に今後の予定をお願いします。

伊佐津「長野県内を中心にアルバムのリリース前から順次ライブをやっているので、ぜひ足をお運びください」

 


RELEASE INFORMATION

ジャズ・イリゼ 『シネマ・ソングス~シェルブールの雨傘~』 Jazz Irise(2024)

リリース日:2024年7月31日(水)
品番:JZIR-003
価格:3,000円(税込)

TRACKLIST
1. The Entertainer(エンターテイナー)
2. Plein Soleil(太陽がいっぱい)
3. James Bond Theme(007ジェイムズ・ボンドのテーマ)
4. Over the Rainbow(虹の彼方に)
5. The Umbrellas of Cherbourg(シェルブールの雨傘)
6. Tonight(トゥナイト)
7. Maria(マリア)
8. America(アメリカ)
9. The Shadow of Your Smile(いそしぎ)
10. Mission: Impossible(ミッション:インポッシブル)
11. Sunflower(ひまわり)

■レコーディングメンバー
伊佐津さゆり(ピアノ)
渡辺邦子(箏)
中島仁(ベース)
河村亮(ドラムス)
渡辺淳(尺八)
太田剣(サックス)

 

LIVE INFORMATION
〜心に沁みる Cinema Songs〜ジャズ ・イリゼ 3rd CDリリースコンサート
2024年9月14日(土)長野・松本 あがたの森文化会館講堂ホール
開場/開演:13:00/13:30
出演:伊佐津さゆり(ピアノ)/渡辺邦子(箏)/中島仁(ベース)/渡辺淳(尺八)
入場料:3,500円(全席自由)
ご予約・お問い合わせ:ジャズ・イリゼ事務局(Tel: 090-8871-5419)/琴光堂松本店(Tel: 0263-32-3255)

2024年11月28日(木)長野・松本 ストーリーハウスカフェ
開場/開演:18:30/19:00
出演:伊佐津さゆり(ピアノ)/渡辺邦子(箏)/中島仁(ベース)/渡辺淳(尺八)
料金:チャージ 3,500円+オーダー
ご予約・お問い合わせ:ライブ事務局(090-8871-5419)/琴光堂松本店(0263-32-3255)/ストーリーハウスカフェ(080-4355-6283)