ピアノの伊佐津さゆりと、箏の渡辺邦子によるデュオ、ジャズ・イリゼ。名前からもわかると思うが、この組み合わせでジャズを演奏している。
ふたりが、長野県内を拠点に活動し、3作目となるアルバム『シネマ・ソングス~シェルブールの雨傘~』をリリースする。タイトル通り映画音楽をたっぷり演奏しているが、参加メンバーも興味深く、ベースの中島仁とドラムの河村亮に加えて、サックスの太田剣、さらに尺八の渡辺淳も参加している。アレンジ担当の伊佐津は、普段作曲もしていて、安曇野の環境が彼女の音楽に与える影響は大きく、〈信州ジャズ〉をコンセプトに活動している時に渡辺邦子さんに出会ったという。
そんな大人のふたりに音楽のバックグラウンドから新作までいろいろお話をうかがった。
ヤマハ育ちでジャズと出会った伊佐津さゆりと現代邦楽に目覚めた渡辺邦子
――初めてインタビューするので、まずは、それぞれのバックグラウンドをお話しいただけますか。
伊佐津さゆり「私は、いわゆるヤマハ育ちなんですね。ピアノは、4歳からヤマハの音楽教室に通い始めて、最初は幼児科でしたが、小学校2年生の時からエレクトーンも始めました。それと並行して、1年生の時からピアノの個人レッスンを始めて。
さらに高学年になると、ヤマハのジュニアオリジナルコンサートといって、自作曲を演奏するコンサートがあるんですが、そのオーディションに受かったので、月に2回ほど自宅がある信州安曇野から高崎まで行ってレッスンを受けていました。その時の先生に〈ジャズっておもしろいよ〉って勧められたのがジャズとの出会いで、チック・コリアやハービー・ハンコックといったピアニストを知りました。
ただ、高校1年の夏に音大を目指すと決めてからは、音大受験を専門とする先生のもとでピアノを学ぶことにしたので、その時点でヤマハを離れてしまったんですよね」
――そこでジャズとの縁は切れてしまったのでしょうか。
伊佐津「当時は、地元のレコード店に行ってもジャズのLPってあまり置いてなくてね。受験を経て、武蔵野音楽大学ピアノ科に進学してから早稲田のダンモ、モダンジャズ研究会に入りました。コンボで演奏するのが楽しかったですね。やっぱりジャズは人と一緒に演奏しないと。都内にいる間はお店で演奏することもありました。いまは安曇野で暮らしています」
――渡辺さんはいかがですか。
渡辺邦子「私は、松本の和楽器店で生まれたんですね。祖母も母もお箏を教えていて、父は尺八の奏者でした。6歳から先生について箏を始めて、いま私は〈正派邦楽会〉という団体に所属しているんですが、そこの演奏家を育成する音楽院で3年間学びました。
音楽院を卒業する頃に現代邦楽といって、洋楽系の作曲家が和楽器を使った曲を書くようになったので、ひとつの時代の始まりでした。その音楽に夢中になって、すごくやりたい、そういう演奏家になりたいと思っていましたね」
――現代邦楽を弾く時の箏は、何弦ですか?
渡辺「従来の箏は13弦ですが、それだと音域が狭く、表現力が乏しいというか。それで現在は弦を増やしていて、20弦、25弦、そして30弦の箏まで出来ています。イリゼでは20弦か、25弦の箏を演奏しています。それでもピアノの音域には敵わないのですが、洋楽器とのコラボの場合は、やはり音域が広い方が、いろいろ対応が可能になります」