FM東京事件の真相(?)
――過激なイメージは〈FM東京事件〉※の影響が大きいですよね。高橋さんもタイマーズの扮装をして現場にいたわけですが、今考えたらあんなバンドがテレビ番組に出たら何かをしでかさないわけがない気もします。当日、何かが起こるんじゃないかとは考えませんでしたか?
「考えてなかったですよ(笑)。あのときは“デイ・ドリーム・ビリーバー”のシングルが売れて大フィーバーで、すごく良かったなと思っていただけだったので。
ただ、メンバーはみんな違うバンドで活動しているのでスケジュールが合わなくて、表紙を飾る雑誌以外はインタビューを受けなかったり、テレビも1つだけに出演するっていうことで、『ヒットスタジオR&N』に出ることになったんです」
――“デイ・ドリーム・ビリーバー”1曲じゃなくてメドレーを演奏することになったのは、どうしてなんですか。
「たぶん、近藤さんの方でそういう条件を出したんだと思います。フジテレビは〈ぜひ出てほしい〉という感じだったので、それで近藤さんと清志郎さん本人が考えて〈メドレーでやりましょう〉ということになったんだと思います。
CM明けという好条件で出てますし、当日の目玉でしたよね。RCもテレビに出るときは他の出演者とは別格扱いでしたし、清志郎さんもテレビ出演にはあんまり抵抗がなかったのか、前向きでした」
――このとき、“デイ・ドリーム・ビリーバー”は既にリリースされていたわけですけど、〈この曲、いいな〉と思ってシングルを買って聴いた人が、1ヶ月後に出たアルバムを聴いたら、ギャップがあってビックリしたでしょうね(笑)。〈それ以外の曲はこんな感じだったんだ!〉って。
「あまりにもシングルとギャップがありすぎちゃって、確かに驚いた人もすごく多かったと思います。ただ、今思うとこのアルバムの強烈さをもっと強く打ち出すようなプロモーションのために、〈FM東京事件〉があったのかもしれないです」
かつてあったけど今なくなってしまった平和
――アルバムで“デイ・ドリーム・ビリーバー”の位置は“ロックン仁義”と“土木作業員ブルース”に挟まれてますけど、曲順をどうするのかはすごく難しかったんじゃないでしょうか。もしかしたらシングルなので収録しないというやり方もあったかもしれないし、でもこの曲がないとこういうアルバムにならなかった気もします。
「 “LONG TIME AGO”でもそういうことを歌ってますけど、清志郎さんは〈今あるものが全部なくなっちゃう、ということはあるんだよ〉と言ってたんですよ。例えば今、時流に乗ってやりたくないことをやっていたとしても、そんなのは一瞬でなくなっちゃうんだよって。RCの“ナイ-ナイ”でも、〈あんなにたくさんあったのに みんな燃えてなくなっちまった〉と歌っていたり、清志郎さんの曲には結構そういう歌詞が多いんです。
“デイ・ドリーム・ビリーバー”も、〈彼女〉という言葉を〈平和〉とかに置き換えて聴くと、〈かつてあったけど今はなくなってしまったもの〉を歌ってるって気付くんですよね。しかも、そう歌っている主人公の居場所もないんですよ。だから、あの曲の歌詞には、そういう狙いもあったんじゃないかなって思います。それを清志郎さんに訊いたら、〈高橋、お前考えすぎだよ〉って言われましたけど(笑)」
――清志郎さんは、タイマーズの活動をすごく楽しんでいた様子でしたか?
「初めから〈あんまり長くやるバンドじゃないし、本気でやるようなバンドでもないんだよ〉とはおっしゃってました。〈でも曲がいっぱいあるじゃないですか〉と言ったら、〈あの程度の曲で良ければいくらでも作れるよ〉って。さすがだなって思いました(笑)」
――あんまりこねくり回さずにブルースやロックンロールに歌を乗せて、即座に曲を出す姿勢がその発言に表れてますよね。それはメンバーの演奏技術があればこそのことだと思いますけれども。
「そうですね。三宅(TOPPI)さんの特性もあるし、川上(剛/BOBBY)さんが弾くスラッピングベースやロカビリーの感じは、清志郎さんのもともとの音楽性にはあまりなかったものなので。あと、清志郎さんは杉山章二丸(PAH)さんを生涯のベストドラマー3人のうちの1人に挙げていて、〈いいドラマーだ〉と言ってました。
“総理大臣”なんかについては、〈ジェームス・ブラウンのファンクを三宅がアコギでやるとああいう風になるんだ〉と言ってましたね。〈でも“ステップ!”みたいな曲はチャボ(仲井戸麗市)じゃないと無理なんだよ〉とも。だから、その辺はRCでやれることと、タイマーズでやれることを区別していたと思います」
――今作のディスク3の追加トラックでは、清志郎さんがブッカーT & MG’sと作った『Memphis』の収録曲“Mama Please Come Back”や、ヒルビリー・バップスに提供した“バカンス”をレゲエでやっていたりするのに驚きました。
「タイマーズは結構色々なことをやってましたよ。同じく後にソロでやっている“口笛”もやっていたし、RCの“June Bride”とか、2・3’Sの“メルト・ダウン”とかもやっていました」