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トロントの音楽シーンと小ささと団結力

――トロントはフォーク、R&B、ジャズなどの素晴らしいアーティストに溢れているイメージがあります。ムスタファシャーロット・デイ・ウィルソンは今年素晴らしいアルバムをリリースしたばかりですし、リバー・タイバーやダニエル・シーザーといった優れたオルタナティブR&Bの才能も根を張っています。あなたは今名前を挙げた全員と繋がりがありますよね。

「うん、みんな友達だよ!」

――トロントにはどんなコミュニティがあるのでしょうか?

「大都会だけど、音楽的なコミュニティはとても小さくてライブ会場も少ない。だからショーに行くと大物にばったり会うこともよくあるんだ。さっき名前が出たようなアーティストが来ていることもよくある。

トロントの人たちはみんな集まるのが好きなんだ。小さなアーティストを支える小さな会場は本当に少なくて成功を掴むのは難しい。だからこそ何かイベントがあるときは、みんなで集まって祝福するんだ。そういう団結力が強いところがあると思う」

――トロントでの具体的な出会いのエピソードを教えてください。

「ある年に、バッドバッドノットグッドが主催している大晦日パーティに顔を出したことがあるんだけど、その時はいろんなアーティストがカバー曲を披露していたんだ。シャーロット・デイ・ウィルソンがフリートウッド・マックの“Dreams”を歌ったり、リバー・タイバーも何かやったりした。150人くらいのそんなに大きくないパーティだったけどね。当時は誰とも知り合いじゃなかったけど、何年も聴いてきたアーティストたちとそういう小さい集まりの中にいたのが印象深かった」

 

ヒップホップのサンプリングからジャズに開眼

――トロントで制作を始めたことはあなたの音楽性に強く影響していると思いますが、まずはティーンの頃にどういう音楽を聴いていたのか教えてください。

「本当に小さいときはリンキン・パークを最初に好きになって、そのあとはレッド・ツェッペリン、ブラック・サバス、AC/DCみたいなクラシックロックを聴くようになった。ティーンになりたての頃から高校くらいまではブルースギターに熱中したよ。ジミ・ヘンドリックスだったり、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、B.B.キングとかね」

――ジャズとの出会いはいつでしょう? あなたにとって大きな存在だと思います。

「まず、高校を出たくらいのときにヒップホップを聴くようになったんだ。特にアメリカのヒップホップはジャズのサンプリングが多いから、サンプリング元を探して聴くようになったね。例えばMFドゥームの“Raid”という曲(プロデュースはマッドリブ)は、ビル・エヴァンス・トリオの“Nardis”をサンプリングしている。そういう発見を通じてどんどんジャズにのめり込んでいった。

18歳くらいの頃はレコード店通いをして安いレコードを買っていたんだけど、その中でもキース・ジャレットのドイツのライブ盤(注:おそらく1975年リリースの『The Köln Concert』)に出会ったのは人生が変わるような、啓示的な体験だった。ジャズについてもっと知りたいと思うようになったのは、あれがキッカケだったね。

バッドバッドノットグッドも同じ時期から聴き始めてとても影響を受けた。そういう経験を通じて、ジャズが自分のライフワークになった。もっとジャズやその歴史を学んで、そこからアイデアを借りて制作に活かしていきたいと思ってるよ」

――音楽制作は何から始めましたか?

「最初から楽器で作曲してた。小さい頃からギターやピアノを学んでいたからね。トロントで借りた家にオルガンがあったから、ギターかオルガンを使って曲を作ってみて、その過程を携帯で録音したのが始まり」

――初めて作った曲のタイトルって覚えてますか?

「アコギで自分で歌いながら作ったのが最初だったんだけど、なぜかタイトルは“Louis Vuitton”だった。今となってはなんでそんなタイトルにしたのか全然わからない(笑)」