アニメーション × 演劇の世界を牽引するイギリス発の劇団〈1927〉
新作「ROOTS」が高知にやってくる!

 イギリスの劇団として世界的に名を馳せる〈1927〉。彼らの手がけるパフォーマンスは、手描きのアニメーション、映像、イラストレーション、ライヴ・ミュージック、そしてパフォーマーたちの演じる身体性という、さまざまなメディアが、一堂に舞台上で会する。ほかでは見ることができないオリジナリティあふれる作品は、最先端でありながら、まるでトーキー映画のようなノスタルジックなモードがある。

 今回、招聘される「ROOTS」は、世界中に散らばる様々な民話や昔話を分類づけた本、「アールネ・インデックス」から着想を得て、バラエティにとんだ短編を集めて、ひとつの作品に構成した。日本では、高知県立美術館のみで上演される。その作品について、共同主宰でアニメーションを担当するポール・バリットとアソシエイト・ディレクターのエズミ・アップルトンに話を聞いた。


 

――ユニークな作品を作ることで世界的に知られている〈1927〉ですが、作品に共通する特徴から教えていただけますか?

ポール・バリット「やはり、アニメーションの使い方でしょうか。パフォーマンスとアニメーションが舞台で組み合わされる。もちろん、ほかでも、アニメやフィルムが舞台で使われることはめずらしくない。でも、〈1927〉の特異なことは、アニメーションはすべてハンドメイド(手描き)で作られていて、劇団のスタイルになるプロセスとしても、何年もの年月をかけて自然に作られていったものです」

――様々なメディアが舞台で組み合わされるパフォーマンスですが、ハイテクを駆使するというよりも、その逆の方向をいく舞台ですね。

バリット「私たちもテクノロジーの恩恵は、フィルムを合成したり、音を流したりするときに、コンピュータを使うことでは受けています。でも、新しい境界を超えていくような作品を創るためには、テクノロジーを使って突破することはできないと思っています。私は、ハンドメイドが未来を作ると思っています。だから、最もわたしが信頼しているテクノロジーは、手描きのためのペンですかね(笑)。

アニメーションも意図的に手作り感を出しています。ペーパーカット(紙切り)の人形を作ったり、ストップモーションを組み合わせたり、コンピュータを使う部分もありますが、イメージそのものを作るのはコンピュータではできない。ミスがあっても、ミスが起こることも重要だと思っています」

――今回、上演される「ROOTS」は、〈1927〉のスタイルはもちろん、民話や昔話を集めて作られたというモチーフにおいても、ユニークだと思います。

エズミ・アップルトン「演出のスザンヌ・アンドレ―ドが、いくつかの民話を集めて、軸となるストーリーを最初に持ってきました。そして、話しあって、それぞれの短編の民話のアニメーションやパフォーマンスのスタイルは、音楽も含めて、すべて変えようと決めた。影絵やコミック、グラフィックノベル(ビジュアルブック)のような、それぞれ違うアニメーションを使うことにした。そして、コーンウォールというイギリスの素敵な風景と伝説もたくさんある場所で、ワーク・イン・プログレスの舞台を観客に見てもらって、反応を見ながら、構成なども練り直しました」

――使われている数々の民話はイギリスでは有名な話なのですか?

アップルトン「いえ、私たちも全く知らない話を選びました。スザンヌはオリジナルの作品も作るのですが、今回は改変せずに、その民話の物語に忠実であろうとした。この話のナレーションは、色々な人たちによって語られています。子どもから大人まで、家族や友人など、なかにはもう亡くなってしまった人もいる。民話が口伝で伝えられたように、この作品もそれに倣った。この作品のタイトルにある『ROOTS』という言葉は、私たちのルーツに立ち戻るような作品としてもありました」

――「ROOTS」におけるアニメーションは、短編の民話それぞれによって違うテイストとのことですが、具体的にはどのように作られたのでしょうか?

バリット「話自体は短いものですし、創作のプロセスもとても自由なものでした。たとえば、最初のシーンではベティ・ブープの漫画風にしました。『スネーク』という民話の部分では、典型的なアニメ風なものにして、フレームごとに絵を描きました。ダダイストでシュルレアリスムの美術作家であるマックス・エルンスト風にしたのは、『二匹の魚』という民話のパートです。

最後のパートでは、ゴーグルを置いてヴァーチャル・リアリティの世界を覗くかのような仕掛けにした。そこでは、影絵アニメーションの映画監督であるロッテ・ライニガーのシルエットの白黒の世界から、日本の現代美術作家である田名網敬一さんのようなマッド・カラフルな派手な色をつけてみるとか、インスピレーションという言い方で括るのは難しいものがありますが、色々な影響を受けました。でも、たくさんの話と色々なテイストを組み合わせて作られているとしても、それらを含めて私たちの劇団の世界観にしています」

――日本では、日本のコーンウォールと呼ばれているかは分かりませんが(笑)、高知という同じくらい素敵な場所で上演されます。日本の観客にメッセージをお願いできますか?

アップルトン「それぞれの国や地域に愛すべき民話や物語はあると思います。観客のみなさんが、この作品に出てくる民話を実際に知らなくても、それぞれの民話の物語には、どこか気になる、どこか共通するところがきっとある。物語はもちろん、物語の伝えようとする実際のメッセージ、パフォーマンスのスタイルなど、なにかを持ちかえることができると思っています。これは、チョコレート・ボックスのような作品です。チョコレートが詰まった箱のように、短編が集まった作品です。だから、どこかにひとつ、お気に入りの親近感のある作品を見つけることができると思っています」

〈1927〉ってなに?
シアターカンパニー〈1927〉は、イギリス南東部の海辺の町マーゲートを創作拠点に、共同芸術監督の劇作家兼演出家のスザンヌ・アンドレ―ドとイラストレーター兼アニメーターのポール・バリットが2005年に結成したシアターカンパニー。活動初期から協働する俳優エズミ・アップルトン、作曲家でピアニストのリリアン・ヘンリー、プロデューサーのジョー・クロウリーとともに、演劇の垣根を越えた音楽性溢れるアニメーションとライブパフォーマンスを融合した唯一無二の舞台作品を生み出してきました。デビュー作「Between the Devil and the Deep Blue Sea」はエディンバラ・フリンジにて賞を総なめし、現在ではオリジナルの演劇作品以外にもオペラ、映画、TVドラマ、ラジオの現場との協働でも活躍しています。カンパニー名〈1927〉は世界初のトーキー長編映画「ジャズ・シンガー」が公開された1927年に敬意を込めて命名しました。
https://www.19-27.co.uk/roots

 


INFORMATION
日本初演・高知のみ!
1927「ROOTS」Stories from a simpler time...
[英語上演・日本語字幕付]

2025年1月18日(土)高知県立美術館ホール
開場/開演:18:30/19:00

2025年1月19日(日)高知県立美術館ホール
開場/開演:13:30/14:00

出演:フィリッパ・ハンブリー/フランチェスカ・シモンズ/デイビッド・インシュア=カオ/ハンナ・ミラー
劇作・演出:スザンヌ・アンドレ―ド
共同演出:エズミ・アップルトン
プロダクション・マネージャー:ネイソン・ジョンソン
舞台監督:アリッサ・ハージンガー
アニメーション・映像・美術:ポール・バリッド
エグゼクティブプロデューサー:ジョー・クロウリー

プレビュー公演
2025年1月17日(金)高知県立美術館ホール
開場/開演:14:40/15:00
日本語字幕の初演回につき、プレビュー公演として公開します。

https://moak.jp/