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ヴィオラ界に新星現る! 敬愛するターティスに捧ぐデビュー盤をもって世界へ

 ヴィオラ界に新星が現れた。1995年ロンドン生まれのティモシー・リダウトだ。英国王立音楽院とクロンベルク・アカデミーで学び、2016年ライオネル・ターティス国際コンクールで優勝し、世界の舞台へと飛翔した。

 ライオネル・ターティス(1876~1975)はイギリスのヴィオラ奏者で、演奏家、編曲家、作曲家として活躍。ヴィオラの独奏楽器としての地位を確立した。

 「僕は10代のころからターティスのヴィオラへの愛情と熱意に魅了され、ぜひ彼の名を冠したコンクールに参加したいと思っていたのです。20歳でしたから緊張しましたが、優勝できてとても幸せです。その後は欧米各地を飛び回る生活になり、まったく休みなし。でも、ヴィオラの豊かな音、人間の声のような響きをもっと知ってほしいと思っていますので、休みなしでも楽しい」

 リダウトは音楽一家の出身。少年時代は聖歌隊や合唱団でうたい声楽家を目指していたが、変声期後にヴィオラに集中する。

 「僕はどんな作品でも弦を豊かにうたわせるよう心がけています。シューマン“詩人の恋”編曲版を録音したのも歌曲を愛しているから。シューベルトやブラームスの歌曲もヴィオラで演奏したい」

 『ライオネル・ターティスに捧ぐ』では敬愛する彼が好んで演奏した曲を集め、エルガーのヴィオラ協奏曲(チェロ協奏曲の編曲版)ではターティス編を使用している。

 「エルガーとターティスは深い親交があり、ターティス編はヴィオラにとても合う編曲で、エルガーの許諾を得た貴重な版です。実は、僕は現代作品にも興味があり、いまイギリスのマーク・シンプソンにヴィオラ協奏曲を委嘱しています。彼の作品はけっして難解ではなく、ロマン的で美しい。今冬からヨーロッパ各地で初演していく予定です」

TIMOTHY RIDOUT, FRANK DUPREE, JAMES BAILLIEU 『ライオネル・ターティスに捧ぐ』 Harmonia Mundi/キングインターナショナル(2024)

 もうひとつ忘れてはならないのがJ. S. バッハ“パルティータ第2番”の“シャコンヌ”(ヴィオラ版)。「僕にとってこの曲は〈聖なる存在〉」と目を輝かせる。

 「ターティスが好んだ曲です。いろんなヴァイオリニストの演奏を聴いて育ちました」

 使用楽器はベアーズ国際ヴァイオリン協会より貸与されたペレグリーノ・ディ・ザネット製作(1565~75年頃)。その愛器とともに、リダウトは超絶技巧も自然に楽々と奏で、音色はのびやかで雄々しく自由闊達。歌を愛する彼は低弦の音をうたうように響かせ、聴き手の心の内奥へゆったりと浸透させていく。心癒される音である。人なつこく陽気な素顔も好感度大。