サイケデリック・カルチャーからオルタナティヴな思考へ

マーク・フィッシャー 『K-PUNK アシッド・コミュニズム――思索・未来への路線図』 ele-king books(2024)

 K-PUNKとは、「資本主義リアリズム」の著者として知られるマーク・フィッシャー(1968-2017)が、2004年から2016年にかけて展開した、自身のブログのタイトルであり、そこでの異名である。これまでに刊行されている、「K-PUNK 夢想のメソッド──本・映画・ドラマ」、「K-PUNK 自分の武器を選べ──音楽・政治」(どちらもP-VINE刊)の2冊の邦訳は、その全編をおさめたアンソロジー「k-punk: The Collected And Unpublished Writings Of Mark Fisher」として刊行されたものであり、本書は、その完結編となる。それは、絶筆となってしまった「アシッド・コミュニズム」を含む、〈資本主義リアリズム〉に対抗するための解決へと至る道筋でもある。

 K-PUNKの由来が〈サイバーパンク〉であることが示唆するように、フィッシャーには、オルタナティヴとしてのもうひとつの思考としてのリアリズムが必要だった。しかし、サイバーパンクもまた〈現実の砂漠〉の拡張でしかなかったとすれば、私たちを信じ込ませるもうひとつのリアリズムの確立こそ急務となる。そのために、フィッシャーが、多様なカルチャー、サブカルチャーを動員して文化批評から展開して見せたのが、このK-PUNKでの一連のエッセイである。

 それは、ニュー・ウェーヴSFやポスト・パンク時代の音楽への共鳴であり、社会思想の側からは具体的な本質に到達できなかった本質に近づくことを可能にする。映画や音楽批評と政治やアクティヴィズム、そして憑在論らが関連し合う刺激的なエッセイの数々。最終巻となる本書では、〈資本主義リアリズム〉から脱出する手段として、60年代のサイケデリック・カルチャーが召喚される。

 この本(この日本語版)が刊行されてから、現在までの間に、アメリカではドナルド・トランプが、2024年の大統領選挙にて再選された。民意はSNSからの情報に翻弄され続けている。〈ヴァンパイア城からの脱出〉はいまだに私たちの急務である。