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新しいものが見えてきて

 今回の『Hallucinating Love』は初めてカウンターから親レーベルのニンジャ・チューンに籍を移してのリリースとなる。制作期間は数年にわたったものの、実際には終盤に構成が大きく動いてアルバムの内容も固まったようだ。

 「書き上げた楽曲を聴き直した時にしっくりこない曲やオリジナリティに欠けるものを破棄したんだよね。最初のデモにあった“Blackoak”や“Eko’s”を含む数曲を残して、他の楽曲は山ほど捨てた。最後の数週間で“Dancing In The World”を含む3曲を完成させたんだ。締め切りがあったことは僕らにとって良かったと思う。違う視点で聴いた時に、新しいものが見えてきて土壇場で数曲変更することになったんだ」(クリス)。

 「“Blackoak”が新しい流れを作ったね。クリスの言うように締め切りの存在は重要だった。エレクトロニック系のインスト曲を制作していると、できることが多いだけに長い時間をかけてしまいがちになる。でも、期限が近づくと作品を完成させなきゃいけないことに気づいたり、集中力が研ぎ澄まされて新たな視点が生まれたりする。とにかく、僕らにとって新しくてエキサイティングな楽曲作りをめざした。サウンド的には“Blackoak”が基盤になったかもしれない」(リアム)。

 そんな意図もあってかオープニングに置かれた“Blackoak”は、スーダンのオブスキュア・ファンクといえるスコーピオンズ&サイーフ・アブ・バクルの“Nile Waves”を軽快に敷き詰めた温かな仕上がり。そこに牧歌的な昂揚を持ち込むのはアンドレヤ・トリアーナ“Do That For You”からサンプリングした歌声、それに合わせた友人たちの合唱だ。馴染みのホリー・ウォーカーを迎えたキャッチーな“Otherside”を経て、イオラのゴスペル・ブルース“B And O Blues”ネタが清らかなクワイアとして機能する“II Remember”も目映い幸福感を湛えているし、さらに“All I Need”では再度“Do That For You”ネタの別パートから〈All I Need Is Your Love〉のフレーズをリフレインした逸曲になっていて、このソウルフルな流れがもたらす充足感たるや、とんでもない。

 同時に、繊細な音使いがUKダンス・ミュージックの色調と融合しているのも本作の特徴で、ガイダーの歌声とクリーンなギターがラウンジーな快さで滑り抜けていく“Bloom”、ジャック・シブリー(ノース・ダウンズ)の歌う懐かしげなダンス・ポップ“Dance On The World”、ふたたびホリーを迎えた神秘的な“Peace Talk”、ニール・カウリーのピアノを軸にしたインスト“Passing Clouds”、幻想的に舞う声のサンプルも印象的なエレポップ“Eko’s”と楽曲ごとの表情もさまざま。そしてラストに雄大に聳える“Rolling Stone”では、オーガニックな音色を取り込んだ繊細なエレクトロニクスというベーシックなマリブー・テイストが改めて賞味できるはずだ。

 根源にある英国のダンス・ミュージック文化を色鮮やかに反映し、愛と祝福で満たしたような『Hallucinating Love』。当人たちにも救いをもたらしたこのアルバムは、きっと聴く者にとっても温かい光となるはずだ。

関連盤を紹介。
左から、アンドレヤ・トリアーナの2019年作『Life In Colour』(Hi-Tea)、スコーピオンズ&サイーフ・アブ・バクルの80年作『Jazz, Jazz, Jazz』(Bou Zaid Phone/Habibi Funk)、ニール・カウリー・トリオの2024年作『Entity』(Hide Inside)