サザン・ロックの新時代を代表する姉妹がグラミー受賞を経て、ますますパワーアップ! 雷の如き演奏、郷愁を誘う歌心……新作『Bloom』は魂震わすブルースが百花繚乱だ!!
ラップ・スティールを唸らせるミーガンとソウルフルな歌声を持つレベッカのラヴェル姉妹から成るサザン・ロック・デュオ、ラーキン・ポー。ナッシュヴィルが拠点の彼女たちは2010年の結成以来、精力的に続けてきたリリース及びツアーに加え、アメリカン・ロックの名伯楽と謳われるT・ボーン・バーネット、エルヴィス・コステロ、スティーヴン・タイラー(エアロスミス)、ビリー・ギボンズ(ZZトップ)ら大先輩たちとも共演しながら、いわゆる通好みのロック・バンドとして、トラディショナルなロック愛好家たちから支持されてきた。
そんな彼女たちにとって大きな転機となったのが、前作『Blood Harmony』(2023年)でのグラミー賞ベスト・コンテンポラリー・ブルース・アルバムの受賞だった。
「私たちはある意味、目立たずに成功していることを誇りに思ってきたバンドだった。ある規模のバンドになるには、ときには妥協が必要なんだと思わされることもあったし、そのうえで、私たちはどんなときもラーキン・ポーとしてのアイデンティティーやユニークさを守る選択をしてきた。ちょっとだけ王道を外れた、変わった存在だったと思う」(レベッカ)。
「だからグラミーだなんて、とても現実とは思えなかった。でも、いいタイミングだったと思う。グラミーの受賞を経て、新作のための曲を書き、レコーディングを始めたんだけど、間違いなく後押しされたし、〈自分たちが進んでいる道は間違ってないんだ〉というさらなる確信を持てた気がする」(ミーガン)。
その新作というのが、前作から2年2か月ぶりにリリースする7作目のアルバム『Bloom』だ。ミーガンがアルバムのなかでいちばん気に入っているという1曲目の“Mockingbird”をはじめ、ブルースの影響が色濃いロック・ナンバーを軸にしながら、それだけに留まらない振り幅が今回の大きな聴きどころになっている。
なかでもレベッカの特に好きな曲だというビートルズ的なバラード“Little Bit”、オールマン・ブラザーズ・バンドやマーシャル・タッカー・バンドといった往年のサザン・ロック・バンドをリファレンスにしながら、たとえばシェリル・クロウにも通じるポップな魅力を曲に落とし込んだ“Fool Outta Me”、そしてエヴァリー・ブラザーズ・スタイルのハーモニーを自家薬籠中の物としたロック・バラードの“Bloom Again”は、新境地を開拓することによってバンドを成長させようという意欲の成果と言ってもいい。これまでやってきたことを踏襲するだけでは、二人は全然飽き足りないようだ。その意味では、見事なコンビネーションを聴かせる2本のギターをこれまで通り軸にしながら、バンド・アンサンブルにハモンド・オルガンの音色を大胆に加えた挑戦も聴き逃せない。
「ラーキン・ボーの家族にオルガンを加えたら、楽しいんじゃないかなと思ったんだけど、やってみたらあまりにも楽しすぎて、2025年のツアーではオルガン奏者を連れていこうと真剣に考えてるところ。ラーキン・ポーにとっては新しいテクスチャーだけれど、たとえばオールマン、ディープ・パープル、クリームといったクラシック・ロックのアンサンブルでもハモンド・オルガンが果たした役割は大きかったでしょ」(レベッカ)。
その一方で、従来のブルース路線の曲にも聴きどころは少なくない。ステレオタイプの女性像を押し付けられることに対するレジスタンスをテーマにしたデルタ・ブルース調の“If God Is A Woman”は、彼女たちのルーツやスタンスをアルバムに刻み込むという意味で欠かせない一曲だったはず。ギターで鳴らしたドローン・サウンドが曲に凄みを加えている。ちなみにリファレンスは戦前ブルースを代表するファリー・ルイスだったそうだ。自分たちが受けてきた影響を躊躇することなく語れる真っ直ぐさも彼女たちがファンから信頼される理由のひとつだと思うが、ブルースに留まらない幅広い影響や新たな挑戦を反映させることができた『Bloom』は、「このバンドにとって、とても意味のある節目になった」とレベッカも言っている通り、二人の新たな起点となるに違いない。つまり、ラーキン・ポーはここからまだまだ進化し続けるということだ。
ラーキン・ポーの近作を紹介。
左から、2022年作『Blood Harmony』、ニュー・デコ・アンザンブルと共演したライヴ盤『Paint The Roses (Live In Concert)』、2020年のカヴァー集『Kindred Spirits』、2020年作『Self Made Man』(すべてTricki-Woo)
ラーキン・ポーが客演した近年の作品を一部紹介。
左から、リンゴ・スターのニュー・アルバム『Look Up』(Capitol Nashville)、ルーシー・フォスターの2024年作『Mileage』(Sun)、2023年のサントラ『Sweetwater』(Candid)、ニッティ・グリッティ・ダート・バンドの2022年作『Dirt Does Dylan』(MRI)