響きも意味も活かす桑田佳祐の日本語詞からの影響
──“Flare”と“どうにもこうにも”は、日本語の曖昧さや多義性を意識した歌詞が印象的でした。例えば〈一人はいい〉というフレーズも、聴く状況や気分によって〈一人は(とても)いい〉〈一人は(もう)いい〉と全く逆の意味にとれる。こういう日本語の面白さにこだわった背景は何かありますか?
PETAS「そこは単に、書いている途中で〈どちらの意味にもとれる〉と気づいたんです。でも、そこから意識的に、そういう表現を取り入れていくようになりました。英語だと、文の冒頭で疑問文か肯定文かが明確に分かれますよね。〈Do you~〉と始まれば疑問文だし、語尾を上げて意図を伝える必要がある。でも、日本語には〈どっちとも取れる〉表現が結構あるんですよ。〈どっちに見える?〉みたいな曖昧な言い回しとか。そのニュアンスを曲の中で活かせたら面白いなと思いました」
──そうした日本語の使い方は、誰かの影響を受けていますか?
PETAS「桑田佳祐さんだと思います。特に、学生の頃に観た桑田さんの音楽番組『音楽寅さん(桑田佳祐の音楽寅さん 〜MUSIC TIGER〜)』からの影響は大きいのかな。中でも、ビートルズの『Abbey Road』のパロディ“アベーロード”という企画を親父に〈これ面白いぞ〉と観せられたんです。それを観てたら、英語の響きに合わせて日本語を載せているのに、意味もちゃんと通じるようになっていることに衝撃を受けて。それまでずっと、メロディの響きを優先して英語の歌詞を中心に書いていたのですが、〈日本語詞にするのもアリだな〉って思うようになったきっかけになりましたね」
── “Waterfall”も個人的に好きな曲です。イントロのオルガンっぽいフレーズは、グリズリー・ベアを彷彿とさせます。
PETAS「あ、やばい(笑)。グリズリー・ベアっぽいなと僕も思ってました。 “Flare”と同じく、僕の趣味全開で作ったのですが、やはり好きなものは自然と滲み出てしまうのかも。
あとはアークティック・モンキーズからのインスパイアも大きいです。彼ら、ここ2作くらいで大人なサウンドに変化していたじゃないですか。それをどうライブで再現するのか気になっていたんですが、実際に観たらめちゃくちゃアグレッシブで。音源とのギャップが衝撃的だったんですよね。そこにインスパイアされ、〈落ち着いたテンポの曲でも、ライブバンドとしての凄みが表現できないかな〉と試行錯誤を練っていきました」
──そして、レコーディングの最後に作られた“Climber”が、結果的にアルバムを象徴する曲になりましたね。
JIPON「この曲、最初はリフだけの状態だったんです。コード進行もなく、ワンコードでひたすら歌う曲みたいな。ただボーカルラインとメロディがすごく良かったので、BPMを少し速めにしたらしっくりハマった。最初はベースラインもワンコードで貫こうとしていたんですが、〈もう少し動きをつけたほうがいいかも〉となって、少しずつ変化を加えていきました。でもAメロだけは頑なにルート弾きにこだわったんですよね。その後、サビのコード進行など〈こっちの方がいいんじゃない?〉って話しながら、最終的な形に落ち着きました」
音楽の魅力を増幅させる映像やビジュアル表現
──DMSは、楽曲だけでなくビジュアルや映像、アートワークにもこだわり自分たちで制作もしていると伺いました。そうした世界観を作る意識は、どこから来ているんでしょうか?
PETAS「〈バンドをやろう〉と決めたとき、まず考えたのが〈どこにお金をかけるべきか?〉という現実的な問題でした。映像やビジュアルは、音楽と切り離せないどころか、むしろ楽曲の魅力を引き出すための重要なツールだとずっと思っていて。その考えがあったからこそ、就職をするタイミングで、就職先として映像制作会社を選んだんです。
そこで得た経験を音楽活動にも活かしたいし、逆に音楽的な感覚を映像制作にフィードバックすることもできる。そうやって、異なる分野の知識やスキルを持ち寄りながら、クリエイティブな方向性をチーム全体で作り上げていく。バンドというチームだからこそ生まれるものがあるし、そういう〈集合的な創作〉を大事にしていますね」
──これからバンドの規模が大きくなっても、基本的にはDIYスタイルで続けていきたいですか?
PETAS「基本的には、できる限り自分たちの手を動かしながらも、必要に応じてチームを増やしていく、という考えです。例えば、映像制作ってものすごくエネルギーを使うので、そちらに注力しすぎると、メインとなるはずの音楽制作がストップしてしまうこともある。そういう意味では、ディレクション的な立場で誰かに部分的に入ってもらうことはあるかもしれません。
今回の映像やアートワークも、ずっと一緒にやっている写真家・五十嵐絢也さんに撮影をお願いして、仕上げまでお任せしています。僕らのイメージは伝えつつ、クリエイティブは五十嵐さんの感性に委ねることで想像を超えるものが出来て、信頼できるクリエイターと長く組むことで、作品全体の統一感が生まれるんだと思っています。DIYといっても、すべてを自分たちだけで抱え込むのではなく〈自分たちが本当にやるべき部分はどこか?〉を考えながら、バンドの世界観を形にしていきたいですね」