谷村有美の名作群が現在ソニーミュージックから絶賛リイシュー中だ。オリジナルアルバムがLP/CDでそれぞれ新規カッティング/新規リマスター音源でパッケージし直され、特にLPは予約の段階から注文が殺到、入手困難なアイテムとなっているそうだ。
近年のシティポップブームの影響もあり国内外で再評価が進む谷村有美について、当時の〈ガールポップ〉の文脈も含め、その優れた音楽性などを音楽ライターの桑原シローに掘り下げてもらった。 *Mikiki編集部
シティポップブームがもたらした谷村有美の音楽的ルーツへの言及
シンガーソングライター谷村有美の全盛期作品の初アナログ化を含むリイシュー企画が粛々と進んでおり、盛況を博している。2024年6月、第1弾としてファーストアルバム『Believe In』に始まり、現在のところ4作目の『PRISM』まで進行しているが、愛すべき作品たちをアナログで聴ける日がくるのを手ぐすね引いて待っていた筋金入りのファンのみならず、シティポップのガイドブックなどで彼女の存在を初めて発見したと思われる新参リスナーらも交えながら盛り上がりを形成している様子が大変興味深い(アナログレコードのイベント〈CITY POP on VINYL〉の2024年のラインナップに彼女の旧譜が重要アイテムとしてチョイスされ、注目を集めたことも記憶に新しい)。
ところでこれまでの彼女といえば、90年代初頭に興隆したガールズポップブームの中心を成すアーティスト、という共通認識が広く持たれていて、チャートのトップテン圏内に到達したアルバムやシングルなどいずれもその文脈で語られるケースがほとんどだったと思う。
正確に記すとそのブームの呼称は〈ガールポップ〉と言い、いわゆる60年代に花盛りだったティーンポップの総称とは別種のものとして生み出された。由来となっているのは、1992年にソニー・マガジンズから発行されて一世を風靡した音楽雑誌「GiRLPOP」。当誌に採り上げられるようなアーティストを指す用語として重宝されたわけだが、「GiRLPOP」の誌面と同様に、アイドルと呼ぶのが相応しいシンガーからバンドのフロントマンまで、魅力的なルックスを持った〈ガール〉で〈ポップ〉な面々をひと括りにして語ろうという、いささか大雑把な側面があったのも事実だ。
もちろん熱意あるファンたちを通じて各々のアーティストの音楽性を正確に伝達していく作業は長年繰り返されてきたけれど、そういった声がジャンルやシーンの枠を超えて轟いていくケースがどれほどあったかを考えると、なかなかに困難なものがあったと言わざるを得ない。とりわけ谷村有美の場合、作品ごとにすこぶる豊かな情報が詰め込まれていたから、より声を張り上げて主張する必要があったのではないかと想像するに難くない。
それがここにきて、壁が一気に瓦解した感がある。シティポップというフィルターを1枚通しただけで、こんなにも彼女の立ち位置がクリアになってしまうとは、長年のファンとしてはなんだか拍子抜けしてしまう。それからこのブームがもたらした歓迎すべき事項として、彼女の音楽的ルーツについて言及される機会がグッと増えたということも記しておきたい。
スウィング・アウト・シスター、バーシアらと共振するボーカルスタイル
ご存じの方も多いだろうが、谷村有美ミュージックの主要な構成成分は、ジャズ/フュージョンだ。10代の頃、友人からもらったカセットテープに入っていたスタッフの音楽にどハマりし、なかでもキーボーディストのリチャード・ティーの演奏にすこぶる心酔。学生時代はキーボードプレイヤーとしてフュージョンバンドに参加し、腕をふるった(デビュー後のライブステージにおいてもリチャード・ティーへのリスペクトを高らかに表明するピアノ演奏を披露していた)。
そんな彼女の資質は、各アルバムとじっくり対峙すれば一目瞭然。例えば、記念すべきファーストアルバム『Believe In』。CDのセールスがアナログレコードのそれを初めて上回ったことで記憶される1987年にリリースされた本作は、80sポップ特有のエレガントさが凝縮されたかのような名盤だが、多くのトラックが英米のフュージョンサウンドにインスパイアされたデザインで仕上げられており、サウンドプロダクションの質の高さにいちいち惚れ惚れさせられる(アレンジは全曲、大村雅朗が担当)。
主役である谷村のボーカルスタイルからは、同年にファーストソロ『Time And Tide』を発表しているバーシアや(彼女が参加していたマット・ビアンコからの影響が色濃いナンバーも発見できる)、“Breakout”でブレイクを果たしていたスウィング・アウト・シスターといった洒脱でアーバンなUKソウルのクリエイターたちと地続きの世界をめざそうとする意思がハッキリと読み取れる。また、自身の音楽作りのベースに置くべきものはいったい何なのか(憧れの対象との距離感の図り方も含めて)を、この時点ですでに明確化できていた点は高く評価すべきだろう。
曲作りの面でも個性はすでにしっかりと打ち出されていて、デビューシングルに選ばれた“Not For Sale”での凝ったコード進行や転調から、ロック~ニューミュージック系とは異なる出自の持ち主であることが見て取れる(随所に顔を出すボサノヴァ趣味などもそういった印象をいっそう強めていたと思われる)。サウンドの端々にジャズのエッセンスが滲んでいて、それがあきらかに作品の持つハイセンスさに繋がっているあたり、幼い頃からその音楽に親しみ、ジャズピアノにも長けていた松原みきのイメージとダブって見えたりするのだが、どうだろう?
西脇辰弥との出会いから生まれた刺激的な名曲たち
ここで谷村の初期キャリアにおけるキーパーソンとして、アレンジャー/キーボーディストの西脇辰弥について触れておきたい。ギタリストの岩田雅之やChocolate Lipsのボーカルとしても知られる藤原美穂がメンバーに名を連ねたユニット、PAZZのキーボーディストとして1987年にシティポップの傑作盤『バナナフィッシュ』でデビューした彼が、谷村組に加わったのは1988年のセカンドアルバム『Face』が最初。そこから1992年発表の7作目『Docile』まで手厚くサポートしているが、幅広い音楽性を駆使した閃きに溢れるサウンドアレンジは谷村のクリエイティビティも大いに刺激することとなり、まさに蜜月のタッグと呼ぶに相応しいナイスなコラボを繰り広げていく。
西脇が作曲まで担当した曲も多数あり、これが名曲の誉れが高い作品揃いだったりする。“朝は朝 嘘は嘘”や“かもめのように”など『Face』収録の初期コラボ曲をはじめ、フィフス・ディメンションのヒット曲のエッセンスやバート・バカラックの作風などを取り入れたソフトロック曲“ラッシュ・アワーのアダムとイヴ”(『PRISM』収録)、それに同世代の同性に向けた応援ソングとして人気を博し、一般的に彼女の代表作とされる“がんばれブロークン・ハート”(1989年作『Hear』収録)も西脇の手によるものだ。
どの曲もこれぞ〈ガールポップ〉的と言いたくなるヒットソングだが、硬質なデジタルシンセの音色が奏でるファンキーなビートがカッコいい!と、ビビッドに反応するヤングたちがこの先たくさん出てきそうな気がする。主役の趣味性をうまく掬い上げつつ、ちょっとエキセントリックと思えるようなリズムパターンをぶつけてみるなどチャレンジングな音作りが実践されたこれらの西脇参加作。両者の幸せな共犯関係によってもたらされた傑作ガールズAORの数々はいまなお刺激的であり続ける。
注目すべきナンバーはほかにも。まずは、小西康陽と有賀啓雄が共作した“ポストカード”(『Hear』収録)。魅惑のクリスタルボイスとジェントルなメロディーが融合を果たしたこのミディアムバラードは、彼女のディスコグラフィーのなかでもエバーグリーン度の高い名曲だ。
あるいは、アルバム全体として〈渋谷系〉との親和性についてふと思いを馳せてしまう1995年作『圧倒的に片想い』に収録されているラテン調のミディアムチューン“MOON”。クリス・レアの“On The Beach”に通じるメロウでアダルトなムードに包まれて、翳りを帯びた谷村のボーカルが何とも言えない艶めきを放っている。
それから、スウィング・アウト・シスターのプロデューサーとして知られるポール・オダフィをサウンドプロデューサーに迎えた楽曲群(1997年作『daybreak』に収録)も取り上げておくべきだろう。シングルになった“FACE UP”など、レイト60s的なソウルフレイバーをまぶしたグルーヴィーなトラックとの馴染みっぷりがバッチリ過ぎて刺激的な要素は少なめだけれど、完成度の高さはすこぶるバツグン。90年代ポップの逸品と呼びたい1曲だ。
谷村有美の作品は〈J-POP時代のシティポップの最高峰〉
あと彼女のピアノプレイについても少しばかり。“黄昏のシルエット”のソロ(『PRISM』収録)、インストの“Instrumental part I”(『圧倒的に片想い』収録)など卓越した演奏技術を記録した音源がいくつか残されているが、ミシェル・ペトルチアーニを彷彿とさせるパッショネイトにして躍動感のある鍵盤捌きは彼女の音世界を形成する重要な要素であり、どれも麗しくカッコいい。ピアニスト・谷村有美の活躍ぶりはライブ映像としていろいろと残されているので、チェックしてみていただきたい。
これぞまさしくJ-POP時代のシティポップの最高峰――谷村有美のすべてのアルバムを聴き直してまっ先に浮かんだのはそんなフレーズだ。そもそも彼女の音楽は、特定のタイプに区別されたりすることなく、実に幅広い層に聴き継がれてきた歴史を持っている。アニソンファンならば「21エモン」に使われた“21世紀の恋人”にずっと恋焦がれた思い出をお持ちだったりするだろうし、親しみやすい彼女自身のキャラに惹かれてファンになり(ラジオ番組の人気パーソナリティ―としてトップの座をキープし続けていた経歴もあり)、新曲の到着をいつも指折り数えながら待っていた人もごまんといるだろう。
そんな彼女には、キュートにしてカジュアル、そしてエレガントかつフェミニンなシンガーソングライター、という肩書が相応しい気がするけれど、〈ポスト・ユーミン〉と目された面々のなかでもハイセンスさと大衆性の塩梅がすこぶる優れていた逸材だったのは間違いない。そういった音楽スタイルや佇まいといったものは、aikoや絢香などの後人たちに引き継がれているように思われる。
もうじきリイシュー第5弾として1991年リリースの人気作『愛は元気です。』のCDとアナログ盤がわれわれの手元に到着する。今回もよりいっそうの盛り上がりぶりが期待される。
RELEASE INFORMATION
リリース:2025年5月7日(水)
オリジナル発売日:1991年5月15日
■CD
品番:MHCL-3081
価格:3,520円(税込)
2024年最新リマスター音源
■LP(完全生産限定盤)
品番:MHJL-334
価格:4,620円(税込)
2024年最新リマスター&カッティング音源(12inch/33 1/3 RPM)
TRACKLIST
1. 愛は元気です。
2. 走れ!パンプス
3. 消せない想い
4. 友達
5. OH MY GOD!!
6. Pajama Days
7. パレード・パレード
8. どうでもいいの
9. 生まれかわる気持ち
10. 今が好き
※CDのみセルフカバーの新録曲を収録(予定)
※LPは曲順の構成を一部変更しております
リリース日:2025年1月22日(水)
オリジナル発売日:1990年5月12日
■CD
品番:MHCL-3080
価格:3,520円(税込)
2024年最新リマスター音源
■LP(完全生産限定盤)
品番:MHJL-333
価格:4,620円(税込)
2024年最新リマスター&カッティング音源(12inch/33 1/3 RPM)
TRACKLIST
1. BLUEじゃいられない
2. 6月の雨
3. ようこそ愛する気持ち
4. 友達でいい
5. 黄昏のシルエット
6. シンデレラの勇気
7. ラッシュ・アワーのアダムとイヴ
8. 眠れぬ夜の恋人達
9. つばめに逢える頃に
10. ひとつぶの涙
(LP:Side-A M1~5/Side-B M6~10収録)
リリース日:2024年11月3日(日)
オリジナル発売日:1989年6月21日
■CD
品番:MHCL-3079
価格:3,520円(税込)
2024年最新リマスター音源
■LP(完全生産限定盤)
品番:MHJL-332
価格:4,620円(税込)
2024年最新リマスター&カッティング音源(12inch/33 1/3 RPM)
TRACKLIST
1. 明日の恋に投げKISS
2. ボンネットに太陽
3. がんばれブロークン・ハート
4. 傘を持ってでかけよう
5. BOY FRIEND <Special Arranged Version>
6. HALF MOON
7. もう恋は。
8. HELP
9. 2人はいきなり
10. ポストカード
(LP:Side-A M1~5/Side-B M6~10収録)
リリース日:2024年8月3日(土)
オリジナル発売日:1988年9月1日
■CD
品番:MHCL-3078
価格:3,300円(税込)
2024年最新リマスター音源
■LP(完全生産限定盤)
品番:MHJL-331
価格:4,400円(税込)
2024年最新リマスター&カッティング音源(12inch/33 1/3 RPM)
TRACKLIST
1. 生まれたての朝 ~Brand-New Sunshine~
2. すべてわがまま
3. ガラスの午前4時
4. 朝は朝 嘘は嘘
5. Tonight
6. かもめのように
7. FEEL ME
8. 夏の終り
9. 恋をしなさい
(LP:Side-A M1~5/Side-B M6~9収録)
リリース日:2024年6月26日(水)
オリジナル発売日:1987年11月21日
■CD
品番:MHCL-3077
価格:3,300円(税込)
2024年最新リマスター音源
■LP(完全生産限定盤)
品番:MHJL-330
価格:4,400円(税込)
2024年最新リマスター&カッティング音源(12inch/33 1/3 RPM)
TRACKLIST
1. 予感 -I’m Ready to Love-
2. 未完成
3. Not For Sale
4. 星のダンスを見においで
5. ためいき色のタペストリー
6. BIRTHDAY
7. Bye Bye Black Jack
8. 恋待月夜
9. Gentle Rainに意地悪
10. MELODY
(LP:Side-A M1~5/Side-B M6~10収録)
PROFILE: 谷村有美
シンガーソングライター兼ピアノ弾き。ピアノを駆使し叩くように演奏するライブには定評がある。エッセイ、特にラジオ・FMプログラムでのDJとしての実績も多数。シティポップムーブメントやアナログレコード人気に伴い、国内外からクオリティの高い作品やボーカルが再注目されている。
ソニーミュージック公式サイト:https://www.sonymusic.co.jp/artist/YumiTanimura/
X:https://x.com/tanimurayumi
YouTube:https://www.youtube.com/@yumitanimura_official
Blog:https://ameblo.jp/digi-yumi/
谷村有美オンラインコミュニティ〈おしゃべりカフェ〉:https://fanicon.net/fancommunities/1669
毎週月曜日20:00〜「それなりにプラス」好評配信中!




