ケニー・ホイーラーが1970年代初頭に制作した、幻のビッグ・バンド作品の発見

  カナダ出身で、イギリスを拠点にヨーロッパで充実した音楽活動を展開し、2014年に84歳で惜しまれて世を去ったケニー・ホイーラー(トランペット/フリューゲルホルン)。その繊細でスタイリッシュな音楽は、今なお鮮烈な輝きを放っている。

 ホイーラーの評伝の執筆のため、親しい友人だったニック・スマートがリサーチ中に、ホイーラー家の屋根裏部屋で、未発表のビッグ・バンド・スコアを発見した。ホイーラーは、1970年代前半に4年間、レギュラー・ビッグ・バンドを率いており、1973年にリリースした『Song For Someone』と同時期に作編曲された楽譜である。当時のホイーラーのビッグ・バンドがレギュラーで演奏していたBBCの番組で、一度演奏されただけで眠っていた幻の大作を、スマートが指揮するロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック・ジャズ・オーケストラと、ジョン・ダヴァーサが率いるマイアミ大学のフロスト・ジャズ・オーケストラが再現した。フロントには、スマート、ダヴァーサに並んで、イングリッド・ジェンセン、エティエンヌ・チャールズ、ブライアン・リンチ、クリス・ポッターに、ホイーラーの盟友だったノーマ・ウィンストン、エヴァン・パーカーが、フィーチャーされる。

KENNY WHEELER LEGACY 『Some Days Are Better: The Lost Scores』 Greenleaf Music(2025)

 そしてアルバムは、生きていればホイーラーが95歳になる1月14日に、評伝とともにリリースされた。 ホイーラーが、その唯一無二の作編曲スタイルを確立する時期に書かれた貴重な作品が、その盟友たちと、コンテンポラリー・ジャズの精鋭たちによって、鮮やかに甦る。洗練されたアンサンブル、斬新なヴォイスのアレンジ、目眩くリズムの展開とダイナミクス、時代を感じさせるフェンダー・ローズのプレイなど、1970年代初頭にイギリスで、コンテンポラリー・ラージ・ジャズ・アンサンブルの源流となる作品が創造されていたことに、驚きを隠せない。ケニー・ホイーラーの、コンポーザー/アレンジャー・サイドの再評価が進むことが、期待される。